溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
「わぁー!沢山感想来てるよ!嬉しいな」
「風香が今まで頑張った結果だろ?よかったな」
「うん」
風香はSNSに届いたコメントやメッセージを丁寧に読み、朝から幸せな時間を過ごしていた。
今日は風香にとって初めてとなるイラスト集の発売日なのだ。今まで発表されたイラストや未公開のもの、そして作品についてのコメントを書いたものだった。
風香はこの仕事と普段の依頼、そして結婚式の準備などに追われ、この1年は怒濤の時間を過ごしていた。
準備は大変だったものの、1冊の本が完成し、応援してくれていた人の手に届き、そして感想が返ってくる。それが何よりも嬉しかった。
「そういえば、また届いてたんだっけ?」
「うん。担当さんから手紙受け取ったら、また入っていたわ」
風香はその手紙の事を思いだし、微笑む。
何という事もない、普通のファンレター。イラストを細かく見てくれ、絶賛してくれる。そして、最後には必ず「影から応援しています」と書かれているのだ。
そして、その差出人はミントココアと書かれていた。
「………本、送ってもいいかな?」
「あぁ……きっと喜んでくれるさ」
「そうだといいな」
柊は食後のコーヒーではなく、今日はココアを作ってくれていた。
甘い甘い香りが部屋リビングに広がる。
「ねぇ、柊………甘えたいことがあるんだけど……」
「ん?なに?」
「今度、またあの海の見えるホテルに旅行に行かない?また、2人で」
「それはいいね。また行こう」
あの場所には2つの思い出がある。
2人で初めてデートをした場所。そして、風香が沢山泣いた場所。その両方の思い出があったからこそ、今がある。
その思い出の場所にまた楽しい記憶を残そう。
風香と柊は微笑み、あの海を思い出す。
あの場所は2人の大切なものになる、そう思った。
(おわり)