溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 「わぁー!沢山感想来てるよ!嬉しいな」
 「風香が今まで頑張った結果だろ?よかったな」
 「うん」


 風香はSNSに届いたコメントやメッセージを丁寧に読み、朝から幸せな時間を過ごしていた。
 今日は風香にとって初めてとなるイラスト集の発売日なのだ。今まで発表されたイラストや未公開のもの、そして作品についてのコメントを書いたものだった。
 風香はこの仕事と普段の依頼、そして結婚式の準備などに追われ、この1年は怒濤の時間を過ごしていた。
 準備は大変だったものの、1冊の本が完成し、応援してくれていた人の手に届き、そして感想が返ってくる。それが何よりも嬉しかった。


 「そういえば、また届いてたんだっけ?」
 「うん。担当さんから手紙受け取ったら、また入っていたわ」


 風香はその手紙の事を思いだし、微笑む。
 何という事もない、普通のファンレター。イラストを細かく見てくれ、絶賛してくれる。そして、最後には必ず「影から応援しています」と書かれているのだ。
 そして、その差出人はミントココアと書かれていた。


 「………本、送ってもいいかな?」
 「あぁ……きっと喜んでくれるさ」
 「そうだといいな」


 柊は食後のコーヒーではなく、今日はココアを作ってくれていた。
 甘い甘い香りが部屋リビングに広がる。



 「ねぇ、柊………甘えたいことがあるんだけど……」
 「ん?なに?」
 「今度、またあの海の見えるホテルに旅行に行かない?また、2人で」
 「それはいいね。また行こう」


 あの場所には2つの思い出がある。
 2人で初めてデートをした場所。そして、風香が沢山泣いた場所。その両方の思い出があったからこそ、今がある。

 その思い出の場所にまた楽しい記憶を残そう。

 風香と柊は微笑み、あの海を思い出す。
 あの場所は2人の大切なものになる、そう思った。




            (おわり)



< 208 / 209 >

この作品をシェア

pagetop