溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 帰宅した後は、旅行の間に溜まっていた仕事のメールをチェックした後すぐに和臣から貰った資料を読み更けていた。



 メモリーロスは、元々精神疾患に苦しむ人達のために使用されるものだった。
 とても辛い経験をしてしまい、精神的に苦しみ耐えられない人に、メモリーロスの薬を投与し、一時的に記憶を消すというものだった。
 メモリーロスの使い方は簡単だった。
 薬を服用した後に、忘れたいことを強く想像する。脳でイメージした事が薬の作用により一定期間忘れられるというものだった。もちろん1回の服用で完全に忘れることが出来るわけではない。数日で少しずつ記憶が戻ってくるのだ。だが、治療は記憶を消すのが目的ではなかった。
 忘れた記憶を医師が患者にどんな辛い事があったのかを伝えるのだ。それにより、記憶がない状態で、本人に客観的に視点でその出来事を考えてもらう時間を作るようにするのが目的だった。
 記憶がない状態で、どんな気持ちだったのか相手はどうしてそんな辛い事をしてきたのか、これからどうやって生きていけばいいのか。それを繰り返し話していくのだ。
 そういうカウンセリングを続けていくうちに、患者は少しずつ体験を受け入れ乗り越えようとしていくのを支援する。それが目的の薬だった。




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