溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を



 言葉というのは不思議だ。
 ただ敬語を止めただけなのに、更に彼と距離が近くなれたように感じられたのだ。
 食事の時間は、今までよりも盛り上がったように感じられた。少し大人びた様子の柊だったけれど、付き合っていた頃のような気さくと柔らかさを感じられて、よかったなと思えた。


 「ご馳走様でした。いつも、ご馳走してもらってばかりで………ごめんね」
 「それは気にしないで。あと、お酒飲めばよかったのに」
 「………初めて会った時みたいに酔っぱらうのは恥ずかしいから止めたの」


 ホテルから出て車に戻りながら、他愛もない話をする。運転する彼がお酒を飲めないのに、一人で飲むのも寂しいので、今回は飲酒しなかった。今度は2人で飲めるようにしたいな、と思いながら返事をすると、柊が真面目な口調で話し始めた。


 「俺はあの時に風香ちゃんが酔っぱらってくれた事に感謝だけどね」
 「え………」


 風香は驚き、隣りを歩く柊を見上げた。
 暗くなった駐車場でもわかる黒く、そして光りが当たり銀色になる綺麗な彼の髪が目にはいる。そこから風で見え隠れする彼の瞳は、まっすぐこちらを向いていた。

 どうして、急に口調が変わったのかドキドキしてしまう。
 すると、柊はすぐに表情を一転させて、いつもの笑顔に戻った。


 「さ、車にどうぞ」
 「あ、うん………」


 助手席の扉を開けてくれる柊に促されて、風香は不思議に思いつつも車の中に入った。柊は優しくドアを閉めたあと、何故かトラックを開けた。上着を閉まったのだろう。そう思っていたけれど、運転席のドアを開けて入ってきた柊を見て、風香は驚いた。



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