溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 それに、もう1つ考えである、風香に言えない事があり、それを隠すために風香を忘れる必要があったというもの。
 それはどんな事なのだろう。
 考えても、全く思い付かなかった。


 「私も話したけど………思い付かないな………んー、犯罪…………あ!あれは、風香の大切な宝物」
 「え?………あぁ、お婆様から貰った宝石の事?」
 「そうそう。大きなガーネットがついたネックレス」
 「あれがどうしたの?」
 「柊さんはそれを狙っていた、とか?」
 「………そんな事ないよ!」


 風香は思わず声を上げてしまい、すぐに口を押さえた。客は少ないが、突然の大声に怪訝そうにこちらを見てくる人も居たので、風香は小さく頭を下げた。
 

 「動揺しすぎだよ。もしもの話だよ」
 「そうだけど!!でも、そんな事絶対ないよ」
 「私もそう思うけど。ほら、宝石の事を知って欲しくなってしまって………そんな自分が許せなくなって薬に手を出したとか」
 「そしたら、薬の事を忘れればいいだけだし」
 「あ、そっか………んー考えすぎかな」


 腕を組んで考える美鈴を見て、風香は早くなってしまった鼓動を戻すために大きく息を吐いた。美鈴は心配性なのか、突拍子もない事を考え付いたものだ。それだけ、自分の事を考えてくれているのだと思うと感謝ではあるけれど、柊がそんな事をするとは到底思えなかった。
 



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