那須大八郎~椎葉の『鶴富姫伝説』~
ある日、美砂の元に信じられない話が舞い込んできた。源義経が平泉で戦に負け自害したと言うのだ。美砂は首が鎌倉に届くと言う話を聞き自分の目で見るまでは信じるまいと決心した。
暑い夏の日、酒に浸された義経の首が鎌倉に届いた。美砂は北条政子に頼み込んだ。
「どうか義経様に最期のお別れをさせてください。」
とである。これには政子も仰天した。
「大丈夫なのですか。」
「構いません。愛する人がどんな姿であろうとも、最後に一目だけ合わせてください。」
「分かりました。」
とだけ政子は答えた。
政子の言葉を聞いた和田義盛と梶原景時も仰天した。だが、言い出したら聞きはしない性格の政子である。二人は様子を見守る事にした。
美砂は義経の首を両手で持つと顔の高さまで持ち上げ口の中を覗きこんだ。その光景はまるで首と接吻をするかのように見えた。政子も義盛も景時も夏の蒸し暑い日なのに背筋が凍りついた。
覗きこんだ口の中には中は綺麗な歯並びだった。左の奥歯もしっかりと揃っている。その瞬間に美砂は首を高々と差し上げて〈あははははは〉笑い出した。三人は美砂が愛する者の首を見て正気を失ったのだと思った。
次に美砂は首を壺に戻すと床にひれ伏して泣き始めた。そして心の中で呟いた。
〈どなたか存じ上げませんが、義経様の身代わりとなってくださったのですね。高々と笑い声を上げてしまい申し訳ございませんでした。さぞかしつらかったことでしょう。〉
地面にひれ伏して泣いている美砂を見た政子はようやく我に返ったのかと近寄って声をかけた。
「美砂、大丈夫か。」
美砂は政子にだけに聞こえるように言った。
「義経様は鎌倉の一大事にはきっと転生なさり〈いざ鎌倉〉と駆けつけてくださいます。」
政子は美砂に
「あなたは今、九郎殿の首に転生の術を施したのですか。」
と問いかける。美砂は
「私は何もしておりませぬ。」
と言った。
暑い夏の日、酒に浸された義経の首が鎌倉に届いた。美砂は北条政子に頼み込んだ。
「どうか義経様に最期のお別れをさせてください。」
とである。これには政子も仰天した。
「大丈夫なのですか。」
「構いません。愛する人がどんな姿であろうとも、最後に一目だけ合わせてください。」
「分かりました。」
とだけ政子は答えた。
政子の言葉を聞いた和田義盛と梶原景時も仰天した。だが、言い出したら聞きはしない性格の政子である。二人は様子を見守る事にした。
美砂は義経の首を両手で持つと顔の高さまで持ち上げ口の中を覗きこんだ。その光景はまるで首と接吻をするかのように見えた。政子も義盛も景時も夏の蒸し暑い日なのに背筋が凍りついた。
覗きこんだ口の中には中は綺麗な歯並びだった。左の奥歯もしっかりと揃っている。その瞬間に美砂は首を高々と差し上げて〈あははははは〉笑い出した。三人は美砂が愛する者の首を見て正気を失ったのだと思った。
次に美砂は首を壺に戻すと床にひれ伏して泣き始めた。そして心の中で呟いた。
〈どなたか存じ上げませんが、義経様の身代わりとなってくださったのですね。高々と笑い声を上げてしまい申し訳ございませんでした。さぞかしつらかったことでしょう。〉
地面にひれ伏して泣いている美砂を見た政子はようやく我に返ったのかと近寄って声をかけた。
「美砂、大丈夫か。」
美砂は政子にだけに聞こえるように言った。
「義経様は鎌倉の一大事にはきっと転生なさり〈いざ鎌倉〉と駆けつけてくださいます。」
政子は美砂に
「あなたは今、九郎殿の首に転生の術を施したのですか。」
と問いかける。美砂は
「私は何もしておりませぬ。」
と言った。