那須大八郎~椎葉の『鶴富姫伝説』~
大八郎は乳を飲む時、乳母の右手に抱えられる。左手には実の子である女の子を抱えているのだから乳母は大変だ。乳母が美砂に言う。
「この子はよく乳を飲んでよく寝返りを打つよ。本当に元気だね。」
その言葉を聞くと美砂は自分の子供のように嬉しい。そして義経と静を思い出してしまう。
美砂が義経に組み打ちを教わっている最中、義経の奥歯を折ってしまった日の翌日だった。美砂は義経に呼ばれた。義経の部屋には静がいた。義経は、
「静、そんな目で美砂を見るのではない。何かの時にお前を護れるように美砂に組み打ちを教えているのだ。」
静は拗ねた口調で言う。
「夜は眠っている義経様を私に例えて稽古しているのですか。」
美砂は〈それは違います。〉と言った表情で静に言った。
「私はあなたのように妖術が使えません。だから組み打ちの技を鍛練するしかないのです。」
すると静は〈あははは。〉と笑い、
「あなたもあの話を信じているのですか。私は妖術なんて使えませんよ。」
と言う。美砂が
「でもあなたの舞は天空の雲を操り雨降らせることができます。」
と言えば静は〈当然よ〉と言った顔をしている。
静の〈雨乞いの舞〉とは京で日照りが続いた時に後白河法皇が千人の白拍子を集め雨乞いをさせた時の出来事である。誰が舞っても太陽は眩しく輝いていた。しかし静が舞い始めると突然黒雲が湧き上がり土砂降りの雨が降り出したと言う話である。静は、
「あなたは本当にそう思っているのかしら。物事は逆さまに考えると簡単に分かってしまうことがありますのよ。単純単純。」
と言う。
「どういうことですか。」
と尋ねる美砂に静が言う。
「私が白拍子の舞を舞ったから雨が降ったのではなくて雨が降る前に私が舞ったとしたらごくごく当たり前のことです。物事には理があるのですよ。知ってしまえば簡単簡単。」
「でもどうして雨が降るのがあなたには分かるのですか。」
美砂は再度尋ねた。
「私の母は膝が悪くて雨が降りそうな時は痛むのですよ。あの日は天気が良かったのに突然母が〈膝が痛む。〉と言いました。そこで法皇様に無理を言って〈もう見ておられません。次は私が舞います。〉とほんの少し順番を前にしてもらうように強引に言いました。磯禅師が法王様は私の父親だと言っておりましたから多少のわがままは通ります。内心は雨が降らなかったらどうしようかとびくびくしながら少し長めに舞ったのです。黒雲が立ち込めるまで少し長めに舞いました。後は噂が先走りです。〈全身全霊でじっくり時間をかけて舞わなければ雨は降らない。〉とほっとして疲れた私を見た皆が言いました。可笑しいてすね。」
すると義経が口を挟んだ。
「つまり磯禅師の膝が痛んだ時に美砂が組み打ちの型を演っても雨が降ると言う訳か。」
静は義経を睨みつけ美砂を見て笑いながら言った。
「義経様は美砂が気になって仕方ないのですね。あらあら。」
美砂は静に近づくことができて嬉しい。義経は二人から視線を逸らし、
「そういえば武蔵坊の怪童伝説も似たようなものだな。」
と話も逸らして上手く逃げた。
「この子はよく乳を飲んでよく寝返りを打つよ。本当に元気だね。」
その言葉を聞くと美砂は自分の子供のように嬉しい。そして義経と静を思い出してしまう。
美砂が義経に組み打ちを教わっている最中、義経の奥歯を折ってしまった日の翌日だった。美砂は義経に呼ばれた。義経の部屋には静がいた。義経は、
「静、そんな目で美砂を見るのではない。何かの時にお前を護れるように美砂に組み打ちを教えているのだ。」
静は拗ねた口調で言う。
「夜は眠っている義経様を私に例えて稽古しているのですか。」
美砂は〈それは違います。〉と言った表情で静に言った。
「私はあなたのように妖術が使えません。だから組み打ちの技を鍛練するしかないのです。」
すると静は〈あははは。〉と笑い、
「あなたもあの話を信じているのですか。私は妖術なんて使えませんよ。」
と言う。美砂が
「でもあなたの舞は天空の雲を操り雨降らせることができます。」
と言えば静は〈当然よ〉と言った顔をしている。
静の〈雨乞いの舞〉とは京で日照りが続いた時に後白河法皇が千人の白拍子を集め雨乞いをさせた時の出来事である。誰が舞っても太陽は眩しく輝いていた。しかし静が舞い始めると突然黒雲が湧き上がり土砂降りの雨が降り出したと言う話である。静は、
「あなたは本当にそう思っているのかしら。物事は逆さまに考えると簡単に分かってしまうことがありますのよ。単純単純。」
と言う。
「どういうことですか。」
と尋ねる美砂に静が言う。
「私が白拍子の舞を舞ったから雨が降ったのではなくて雨が降る前に私が舞ったとしたらごくごく当たり前のことです。物事には理があるのですよ。知ってしまえば簡単簡単。」
「でもどうして雨が降るのがあなたには分かるのですか。」
美砂は再度尋ねた。
「私の母は膝が悪くて雨が降りそうな時は痛むのですよ。あの日は天気が良かったのに突然母が〈膝が痛む。〉と言いました。そこで法皇様に無理を言って〈もう見ておられません。次は私が舞います。〉とほんの少し順番を前にしてもらうように強引に言いました。磯禅師が法王様は私の父親だと言っておりましたから多少のわがままは通ります。内心は雨が降らなかったらどうしようかとびくびくしながら少し長めに舞ったのです。黒雲が立ち込めるまで少し長めに舞いました。後は噂が先走りです。〈全身全霊でじっくり時間をかけて舞わなければ雨は降らない。〉とほっとして疲れた私を見た皆が言いました。可笑しいてすね。」
すると義経が口を挟んだ。
「つまり磯禅師の膝が痛んだ時に美砂が組み打ちの型を演っても雨が降ると言う訳か。」
静は義経を睨みつけ美砂を見て笑いながら言った。
「義経様は美砂が気になって仕方ないのですね。あらあら。」
美砂は静に近づくことができて嬉しい。義経は二人から視線を逸らし、
「そういえば武蔵坊の怪童伝説も似たようなものだな。」
と話も逸らして上手く逃げた。