Limited-lover
Second day



次の日、どことなくモヤモヤした気持ちごと会社に出勤して、路面電車開局50周年のイベントポスターを抱えて歩く会議室までの道程。

スマホが短いメッセージを知らせた。


あ…宮本さんだ。


『おはよ。今日、昼休み何時から何時?』


片手でパパッとすぐに返信する。


『今日は12半~13時半までとれると思います』


…昨日の夜に初めて打った時は緊張したけど、今は何となく緊張は無いかも。
だって昨日、家に帰ってから、『これからよろしくお願いします』って打ったら
『(笑)(笑)(笑)』って。


意味不明な感じの返しをする人なのか、面倒くさいから一番始めに出て来たやつを連打したのか。

まあ、どっちにしろ私的には???だったから。
何となく、そこでメッセージのやり取りに関して緊張はほぐれた。

『じゃあ、13時10分、書庫整理室の一番奥。遅刻厳禁ね。』

……これは、『来い』って事?

書庫整理室は、過去のイベントのファイルが羅列されている所だけど…
一体何の用事があるんだろう?そこに。







「過剰労働ですっげー眠い。充電。」
「っ?!あ、あの……」
「10分経ったら起こして。」



書庫整理室の一番奥。

滅多に人が入って来ないそこは、シン…と静まり返っている。


宮本さんは、会うなり突然、自分のマフラーを床にひき、その上に私を横座りさせて、そこにゴロンと寝っ転がり、私のお腹にギュウッと顔を埋めた。

そして…すぐに寝息を立て始める。


…膝枕。


『過剰労働』


宮本さんが所属している企画営業部一課はイベントの一つ一つが大きいから大変なんだろうな。

この前なんて、アイドルグループのコンサートに参入したって言ってたし。
同じ課の鈴木さんと言う男性の方がリーダーで、宮本さんや作田さんが中心になって手がけたって聞いた。

私が所属している二課は、どちらかと言うと地域のイベントを手がけるから。
一度に何万人もの集客がある様なイベントは今まで一度も扱っていない。

だから想像が及ばないけれど、すごく…大変なんだろうな…。


太ももに感じる宮本さんの頭の重みと温もり。

一定のリズムで呼吸が刻まれているのが、髪がふわっふわっと微かに動くから分かる。


とりあえず…10分このままにしとくか。


不意に目を床へと向けた。

…わざわざひいてくれたんだよね、自分のマフラーを。私が床に座るから。


少し暖房の効いている中、宮本さんがくっついているせいで、更に温かい。

私も少しばかり微睡みを覚えて、うっつら、うっつら……


~♪
~♪
~♪


急に宮本さんのスマホが鳴り出し、ビクンと私の身体が跳ねた。



「……もう10分か。」


起き上がった宮本さんは、目の前でけだるそうに頭をグルンと回してあぐらをかく。それから小首を傾げてニコッと微笑んだ。


「ありがとう。ちょっとスッキリした。」
「い、いえ…」


マフラー…返さないと。

少し身体を浮かせてお尻から抜き取り丁寧にたたむ。


「これ、すみません。お尻にひいちゃって。洗って返しますね。」
「いいよ。わざわざ。」


ヒョイッと宮本さんが私の手から抜き取った。


「俺が敷いたんだし。」


まあ…そうだけど。
宮本さんが首に巻く物なのに申し訳ない。


「…次回からは座布団持参で来ます。」


言った私を宮本さんはくっと笑い、目尻にシワを作った。


「まあ…麻衣がその方が良さそうならそうする?」


ま、”麻衣”…

ただ、名前を呼ばれただけなのに、鼓動がドキンと大きく跳ねた。


宮本さんの手が伸びてきて頭の上にポンと乗った。髪を撫でるようにスルリとサイドまで降りてくる。丸っこいその親指がほっぺたを少しスリスリしたと思ったらそのまま優しくつままれた。


「…麻衣のほっぺたって、すげー柔らかいよね。結構伸びるし。」


相変わらず優しくふわふわした笑顔。寝起きのせいか、少しトロンとした目。

ずっと見ていられなくて、目線を外して俯いた。


宮本さんの顔が近づいて来ておでこ同士がコツンとぶつかり合う。


…そして。


「ちゃんと目を合わせろつってんでしょ。」



フワリと唇同士がくっついた。


恐る恐る目線を上げた私に、宮本さんは口角をキュッとあげる。



「…良く出来ました。」


今度は私の後頭部を引き寄せ、パクリと唇を自分ので覆った。



そのまま、何度も、ゆっくり優しく重なる唇。


触れる唇の柔らかさ。
そこから、広がる心地良さ。

それにふわふわと気持ちが甘くなる。


「…んじゃ、座布団買いがてらメシでも食いに行くよ、今日。定時であがれる?」
「は、はい…」
「…大丈夫?昨日の威勢の良さとは大違いなんですけど。」
「そ、そんなこと無いです…」
「そう?だったら良いけど。ほら、お互いに頑張らないと。
なんせ、一週間だからね、期限。」


宮本さんが腰をトントンとしながら立ち上がり、それから私の事も引っ張って立たせてくれる。


「じゃあ、仕事終わったら一階のエントランス集合で。」


去って行く猫背がちな背中を見送り、フウと一つ溜息をついた。



…勝手なヤツ、私。
自分で『期限付き』って言ったくせに、何で今、宮本さんの言葉に傷ついた?


「午後も頑張ろう。」

人知れずそう呟いた。

…だって、そうだよ。
せっかく宮本さんがくれた貴重な一週間なんだから。前向きに"彼女”を楽しまなくてどうする。



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