16歳、きみと一生に一度の恋をする。


「おい、藤枝がまた喧嘩してるってよ!」

と、その時。うちのクラスではない男子が廊下からひょっこりと顔を出した。


きっと各教室に言いふらしているのだろう。彼はまた隣のクラスに同じことを伝えにいき、みんなは祭りごとがはじまったかのように、バタバタと廊下へ飛び出していった。

……人の喧嘩なんて見にいって、なにがそんなに面白いんだろうか。

私にはさっぱり理解できない。


クラスメイトが出払った教室は静かですごく快適だった。

お母さんの前では明るくいる私は、学校では暗い人で通っている。

意識して演じているわけじゃない。ただ私には踏み込まれたくない領域がある。

その一線を越えられないようにしてたら、いつの間にかひとりでいることが多くなってしまっただけだ。

とくにやることもないので、一限目の授業の用意でもしようと、机の中から教科書を取り出す。


……ガラッ!!

すると、教室のドアが勢いよくスライドした。

その音は静寂に包まれている空間だとよく響く。私の席は廊下側の一番後ろなので、真横で開けられたドアにわかりやすく驚いて、身体を強ばらせてしまった。


クラスメイトたちが戻ってきたのかと思いきや、目が合ったのは他のクラスの男子だった。

彼は不機嫌そうに教室に入ってきて、また乱暴にドアを閉めた。

< 3 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop