前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 そのときに手紙も落としていたのだとしたら、美來ちゃんが拾って内容を見て、先生に届けたのかもしれない。気を利かせたのか、面白がってなのかはわからないが、あの子ならやりかねない。

 きっとそうだろうと確信し、かあっと全身が熱くなる。どう説明したらいいの?


「あ、あの、それは……ちょ、ちょっと待って、くださ……!」


 いつもの悪い癖で、すらすらと言葉が出てこない。口をパクパクさせる私はさぞ滑稽だろう。あんなことを書いていたと知られたのも恥ずかしすぎるし、もう消えてなくなりたい……。

 絶望感で一杯になっていたとき、先生がふっと笑うのがわかった。恐る恐る目線を合わせれば、私を面白がるふうではない、優しい笑いをこぼす彼がいる。

 滅多に見ない笑みに気を取られているうちに、彼はおもむろにカウンターの中に入ってくるではないか。私は肩をぴょこっと跳ねさせて身を縮める。


「ゆっくりでいいよ。今日はオンコールで呼ばれて、あとは帰って寝るだけだから」


 彼は私にのんびりとした言葉をかけ、いつも末永さんが座っている椅子に腰かけた。そして長い脚を組み、その辺にあった本をパラパラとめくり始める。
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