恋人のフリはもう嫌です

 笑いながら歩く私は、彼の「あ、危ない」という忠告に反応するのが遅れ、近くにいた人にぶつかった。

「ごめんなさい」

 浮かれ過ぎだ。
 ぶつかった人に謝っても、その人は私を見ていない。
 その人は私を通り越し、西山さんをマジマジと見つめていた。

 肩につかないくらいの髪型が真っ直ぐで、その髪型と同じように美しいのに、どこか冷たい表情をした綺麗な女性。

「透哉」

 低めの女性の声が、私の胸に不穏な音を響かせる。
 西山さんは彼女から私を離すように引き寄せ、冷たく彼女に向かって言った。

「道で立ち止まるのは、危ないだろ」

「まさか、あなたに会えるとは思わなくて」

 彼女は往来で立ち止まり、西山さんを見つめていたというの?
 彼女と彼の関係を想像するのは簡単で、けれどそれは見たくない現実だった。

 彼女の方は、嘲笑うように言った。

「女の趣味変わったのね」

「それはどうも」

 冷めたやり取りは、聞いている私の方が逃げ出したくなる。
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