恋人のフリはもう嫌です

「捻くれた言葉が出るのは、西山さんが意地悪を言うからです」

「じゃ、俺の前だけ?」

 安堵したような声を聞いて、頬を押さえながら不平を口にする。

「憎まれ口を言われて嬉しいのは、どうかしています」

「ん? うん。困った顔がかわいくて、誰にも見せたくない」

 絶対にわざとだ。
 私に文句を言わせて、私を陥れるために。

「やっぱりうちにおいでよ」

「そういうわけには」

「俺と一緒にいるのが恐いの?」

 トラップだとわかっているのに、私は口を噤めなかった。

「そんなわけ」

「本当、千穂ちゃんはかわいいよね」

 微笑んだ彼が、私の手を握る。

「お泊まりする恋人同士なんだから、手くらい繋がなきゃ」

「望むところです」

 口では簡単に言えるのに、彼がいる右側の体が熱い。
 繋いでいる手の指先で、悪戯に手を撫でられ、全身が総毛立つ。

「あの、ジッとしてもらえませんか」

 笑いを堪えているような彼が、忌々しい。

 お泊まりするのなら着替えなどを取りに行った方がいいからと、私のマンションに寄ってから向かった。
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