恋人のフリはもう嫌です

「心から好きな相手と付き合うのは、俺も初心者だよ」

「だから」と彼は続ける。

「初心者同士、間違っていてもいいから、思いの丈を言い合って付き合えばいいのかもしれない」

「でも私、本当になにも知りません」

「うん。俺も。普通の恋人は」

 そこまで言って、彼は言葉を切った。

 私は頭の中で、彼の言葉の続きを補った。

『普通の恋人は』どのくらい会って、キスをして、そして。

 彼は、自分が口にした単語を疑問に思ったようだ。

「普通って、なんだろうね。俺と千穂ちゃんが良ければ、それが一番だよね」

「私と西山さん」

「うん」

 彼はベッドから降りて、カーペットの上に座り直し「千穂ちゃんもこっち」と私を呼び寄せる。

 引き寄せられるまま、彼に抱きつくような形でベッドから降ろされた。
 そして、そのまま彼の腿の上に座らされる。

「あ、あの」

「俺も、千穂ちゃんに触れたい」

 バスタオルと軽く巻いただけのシーツの彼は心許なくて、リミッターが振り切れている彼の色気に当てられ、彼の肩に顔をうずめる。
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