恋人のフリはもう嫌です

 あの一件以来、彼との蜜月が始まった。
 毎日どちらかのマンションに泊まり、逃げられない彼の色気に囚われる。

 彼は隙あらば私に触れ、彼が触れていない場所はないのだと思えるほどに、毎日隅々まで愛される。

 今も彼が少しでも甘い顔をすると、一気に色々な情事が蘇りそうになり、顔が熱くなる。
 こんなの彼の思うツボだ。

「何故だか私の周りは、西山さんとのお付き合いに寛容で、10階に行くと現実を思い知るだけです」

 お前ごときが浮つくな。
 そう言われているみたいで。

 けれど彼は違う面から、質問をした。

「どうして千穂ちゃんの周りは、俺との付き合いに肯定的だと思う?」

「え。それは、私も不思議で」

 彼に興味がない、というわけでもなさそうなのに。

 透哉さんは目尻を下げ、穏やかな顔つきで告げた。
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