恋人のフリはもう嫌です
「本当にいらないの?」
律儀に飲む前に私へとお伺いを立てる彼に尊敬の眼差しを送りつつ、正直に胸の内を漏らす。
「緊張で飲めそうにないので」
「それなら」と、彼は内ポケットからミントタブレットを出した。
「口がスッキリして、気持ちも晴れるから」
勧められるまま、ありがたく一粒いただくと「ついでにキスもサービスで付けておこうか?」と言われ、目を見開き、思わず彼から距離を取った。
「緊張、ほぐれること請け合いだよ」
「いいえ。結構です!」
どこまで軽々しいんだ。彼は。
一方的に憧れていた彼と、目の前の彼が本当に同一人物か怪しく思う時が多々ある。
「こういう時は断るんだから、面白いよね。千穂ちゃんって」
前回を引き合いに出されても、今ここで「受けて立とうじゃないの!」という態度を取る余裕はさすがにない。