恋人のフリはもう嫌です

 健太郎さんから珍しく連絡があり、西山さんと飲んでいるから来ないかと誘われた。

 西山さん、私といると飲まないくせに。

 なんとなく面白くないものの、誘われるまま、送られてきた居酒屋へと顔出した。

 座敷で飲んでいた二人のところに通されると、健太郎さんが軽く手を上げた。
 彼らは随分前から飲んでいたようだ。

 西山さんはまさかの酔い潰れて、テーブルにうつ伏せていた。

 どこに座ろうかと迷いながらも、隣に座らないのはおかしいだろうなと思い、西山さんの隣に小さくなって座る。

「どう。こいつ」

 健太郎さんが目を細め、彼を見つめながら私に聞いた。
 それはたまに私にも見せる心配している父親みたいな顔で、健太郎さんの西山さんへの思いが伺えた。

「どうと言われても」

 彼の部屋で他の女性のピアスを見つけて、落ち込んでいます。とは、とても健太郎さんには報告できない。
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