春。さよならを言えない俺に、じゃあ、また。
三年になって受験勉強が本格化した頃には、もうそこまでギターに触らなくなっていたが、今でもあの頃に弾きまくった曲はすぐに弾ける。
それは、置いていけるかな。置いていきたい、忘れてやる。
「でもこの曲、昔はよく聞いたなあ」
隣で郁が言う。そして、口の中で何か呟いたと思ったら、ふふっと、笑った。
「やだなあ、まだ歌えるよ、あたし。歌詞出てくるわ」
昔流行ったアニメかドラマの曲のはずだ。元の映像作品を俺は知らないのに曲を知っていたのは郁のせいだったのか。
夏になる前のある放課後、梅雨の合間に空を覆った雲の間から日がさしていた日、先輩が屋上で一人でこの歌を歌っていたのを思い出す。
会えない誰かに会いたいという歌。
会えない人、聞けない声、変わらないもの…そんな歌。
いつもよりずっと大きな声で、でも、いつもと変わらず感情を抑えた綺麗な声で、屋上の低いフェンスに手をついて空に向かって歌っていた。
俺は泣きそうになって、ただ立ち尽くしていた。
それを聞いた日、二人でうどんを食べたな。二人でメシ食ったの、あれが最初で最後だったな。
「もう、行こうよ、尚。聞いてるの飽きた」
郁が言う。そうだな、と答えて歩き出す。道の先に校門がある。あと数メートルで全部終わりにするんだ。
そこで、ふいに足が止まった。
そのことに自分で驚く。
校門の先には春の日に明るく照らされたアスファルトがあるばかりだった。ただそれだけ。空っぽだ。空っぽ。その先には何もない。
それは、置いていけるかな。置いていきたい、忘れてやる。
「でもこの曲、昔はよく聞いたなあ」
隣で郁が言う。そして、口の中で何か呟いたと思ったら、ふふっと、笑った。
「やだなあ、まだ歌えるよ、あたし。歌詞出てくるわ」
昔流行ったアニメかドラマの曲のはずだ。元の映像作品を俺は知らないのに曲を知っていたのは郁のせいだったのか。
夏になる前のある放課後、梅雨の合間に空を覆った雲の間から日がさしていた日、先輩が屋上で一人でこの歌を歌っていたのを思い出す。
会えない誰かに会いたいという歌。
会えない人、聞けない声、変わらないもの…そんな歌。
いつもよりずっと大きな声で、でも、いつもと変わらず感情を抑えた綺麗な声で、屋上の低いフェンスに手をついて空に向かって歌っていた。
俺は泣きそうになって、ただ立ち尽くしていた。
それを聞いた日、二人でうどんを食べたな。二人でメシ食ったの、あれが最初で最後だったな。
「もう、行こうよ、尚。聞いてるの飽きた」
郁が言う。そうだな、と答えて歩き出す。道の先に校門がある。あと数メートルで全部終わりにするんだ。
そこで、ふいに足が止まった。
そのことに自分で驚く。
校門の先には春の日に明るく照らされたアスファルトがあるばかりだった。ただそれだけ。空っぽだ。空っぽ。その先には何もない。