春。さよならを言えない俺に、じゃあ、また。
どうにかできるなら、とっくにどうにかしてたさ。なんか、どうしようもないな、俺って。
自分でも情けなくて、笑ってしまう。
「なに?思い出し笑い?気持ちわるっ」
郁が言う。
「いいだろ別に」
俺の片割れは眉をひそめたまま俺を横から見上げると、先に歩きだした。
そんな郁の後ろ姿を見ながら、これもすぐに過去になるんだな、と思う。
そうやって時間は経っていくし、覚えているものは覚えているし、そして、たくさんのことを忘れていく。気づきもせずに。
いつか先輩のことだって忘れていくのだろう。
それでも懐かしい歌に出会った時、忘れていたはずなのに歌えるみたいに、俺もいつか、あの歌を聞いて不意に思い出したりするのだろうか。
そうやってまた出会えるだろうか。いつか。
だったらその時に思い出せるように、その時に笑っていることができるように、もう少し覚えていていいだろうか。
もう少し、だけ。
「尚、はやく!」
駆け出した郁が校門の外から手を振った。
俺は足を早める。
後ろから歌が追いかけてくる。
その歌を口ずさみながら俺は高校を後にした。




                  ー終ー


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