転生人魚姫はごはんが食べたい!
「行かなくていいのか?」

 姉の姿と波音が完全に消えてから、旦那様がぽつりと零す。振り返らなくても旦那様の表情がわかる気がした。

「そんなに寂しそうな旦那様をおいてはいけません。私は旦那様のそばにいますよ。ちゃんと、最後まで」

 最後の示す日が命の終わりか、あるいは必要とされなくなる日かはわからないけれど、この命に限りがあるからこそ、旦那様のそばにいたいと思う。
 普段は明るく振る舞っているくせに、案外寂しがりなこの人のそばにいてあげたい。

「だから、帰りましょう。早く帰って眠らないと、お腹がすいてしまいます。でもこんな時間い食べるのは罪深いですから、私は早く帰って大人しく寝たいのですわ!」

「いいのか? 俺と一緒に帰って」

 いいに決まってるじゃないですか。そんなに確認しないと心配なんですか? 私、そんなに信用ありません?

「なんですか、新婚早々に別居の提案ですか?」

「まさかだろ」

 旦那様は静かに笑い、私たちは手を繋いで帰る。
 お城に帰れば夜とは思えない賑やかな空気が私たちを迎えてくれた。

「奥様っ!」

 戻った途端、ニナから熱い抱擁を贈られる。起きているのはイデットさんくらいだと思っていたので驚かされた。

「ニナ!? 寝ていていいと伝えてもらったはずだけれど」

「奥様を放って寝られるわけないじゃないですかぁ!」

 ぎゅっと抱き着いたままニナは叫ぶ。そんな様子を見かねて助け舟を出してくれるのはイデットさんだ。ただしニナを咎めることはない。

「奥様、どうかニナを責めないでやって下さい。ともに待つことを許したのは私なのです。なんでも自分がおかしな話をしたせいで奥様が呪われてしまったから帰宅が遅いだのと言い出しまして……奥様が無事に戻られるまで寝られないと言うのです」

「そうなの?」

 確かに人魚を海に帰していて遅くなりましたとは言えないわけで、少し問題が起きたために遅くなると旦那様は伝えていたらしい。

「ニナ、ありがとう。待っていてくれて嬉しいわ。ただいま」

「奥様ぁ……私、本当に心配したんですからぁ!」

「大丈夫よ、こわいことなんて何もなかったわ」
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