転生人魚姫はごはんが食べたい!
「嫌だよそれ完全に僕が犯人じゃん!」

「駄目?」

「駄目に決まってるからね!?」

「大丈夫よ! 私は海に落ちても平気なの。事件は何も起きないわ!」

 言い争いながらも私は靴を脱いで準備を整えている。

「いや完全に絵が事件現場だよね!? 誰がどう見ても事件だから! 無理無理、僕絶対嫌だからね!? 僕がジェス君に殺されるよ!」

「そこまで言うのなら、仕方がないわね。私一人でも行きます。エリクは港に靴を届けてくれると助かるわ。心配しないで、ちゃんと旦那様と二人で帰るから!」

「いやこれ心配しかないよね!?」

「私、思うのよ。きっと、絶叫系も乗ってみたら楽しかったーーのかもしれないわ。私には隠された絶叫系の才能があったのかもしれない!」

「なんの話!?」

 きっと私は覚醒していなかっただけで、本当は大の絶叫好きだった。そう思うとなんだかいけそうな気がする。

 こわくないこわくない!

「こわくない!」

 エリクの静止を振り切り、助走をつける勇気はないからそっと地面を蹴る。

「エスティ!」

 あ――名前、初めて呼んでくれたのね。

 でも私はもう止まれない。
 恐怖のあまり声は出なかった。ただ歯を食いしばり目を瞑っているいちに身体は海に叩きつけられていた。

「はあ……はあっ!」

 きっと一生分の勇気を使い果たしたと思う。けど旦那様が遠くへ行ってしまうことの方がよほど怖ろしい。そう思えばこれくらい!

 ……二度はないけど! やっぱり私に絶叫系の才能はなかったようです。

 崖の上を見上げると、こわごわ顔を覗かせていたエリクに向けて手を振った。この海域が飛び込んでも大丈夫だということは人魚だった頃に調査済みだ。海に潜った私は旦那様の乗る船を目指して全力で泳ぐ。どこまでだって追いかけますよ、旦那様!
 泳ぎながらも考えていたのはあの女性についてだ。旦那様がおかしくなったのは、あの人が原因だろうかと疑ってしまう。

 洞窟で私たちの会話を聞いていたとして。私を罪人に仕立て上げて自分が王太子妃にでもなるつもりだったの?

 いくら考えても正解はわからない。それにまだ、何か決定的な部分がかけている気がする。でも考え事はここまでだ。
 人魚にかかれば帆船に追いつくことは容易い。船の元までたどり着くと、私は大声で旦那様の名を呼んだ。
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