転生人魚姫はごはんが食べたい!
 なんとか一階へ降りるとニナは玄関からではなく窓からの脱出を提案する。そして自分はここに残ると言いだした。

「奥様行って下さい! みんなのことは私が上手く誤魔化しておきます。私なら奥様が部屋にいると上手く誤魔化すことが出来ますから」

「でも……」

「奥様、私は奥様を信じると決めました。だって奥様は温かくて優しい人なんです。きっと旦那様もそんな奥様のことが大好きなんですよ。私はここで待っていますから、必ずお二人で帰ってきて下さいね!」

「へえ、ニナにしてはよくわかってるじゃん」

「エリク!?」

「ほら行くよ。迷ってる時間、ないよね?」

 そうだ。迷っているうちにも旦那様は遠くへ行ってしまう。私は先に窓から外に出たエリクに続いて城を抜け出した。でも最初から、港にむかうつもりはない。

「ちょっと、そっちは崖だよ!?」

「知ってるわ。港に行くには時間が掛かるでしょう? ここからならすぐに追えるじゃない。ほら、あの船でしょう!?」

 見晴らしの良い高台だ。港から出港した一隻の船が良く見えた。青い海に白い帆の美しい船は悠々と進む。どこへ向かうのかはわからないけれど、風向きは良好、今から港に向かって船を出したところで追いつけはしない。

 船なら、ね。泳ぎなら誰にも負けない自信があるのよ!

 けれど私は大事なことを失念していた。
 エリクを置き去りにしそうな勢いで進んでいた私でしたが、道の終わりが見え始めると心臓が嫌な音を立て始めていることに気付いてしまったのです。ついには足が止まり、身体は震え始めていました。主に足が!

「何、どうしたの?」

「私、絶叫系が苦手だって忘れていたの……」

「なんて?」

 高いところは平気だった。オーシャンビューも堪能させてもらっているところだ。でも落ちるとなれば話は別よ!

 友達と行った遊園地でも、絶対にジェットコースターだけは遠慮したものねえ……
 って、遠い目をしたって駄目なんだから! 早く旦那様を追いかけるんでしょ!?

 エリクに啖呵を切っておきながら情けない姿を晒し続けるのはごめんよ。

「行く、行くわ。一刻を争うんですもの……そう、そうよね……だからエリク、お願いがあるの。目を瞑っているから背中を押してくれない!?」

 応援という意味でも、物理的にもお願いしたいわね。
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