転生人魚姫はごはんが食べたい!
「言ったでしょう? お嬢さんは特別なのよ。私、これでもお嬢さんのことは気に入っているの」

 本当に!? とても気に入っている相手にすることじゃなかったと思うのは私だけ!?

「海の魔女、貴女人魚に戻りたいの?」

「もちろんよ」

「ならどうして私に方法を教えたの?」

 私の存在なんて邪魔なだけでしょう?
 なんなのかしら、この人の行動は回りくどく感じるのよね。話しかければ律儀に答えてくれるし、剣は構えているけど動こうとはしないし。人魚に戻りたいのなら私が来る前に終わらせてしまえばよかったのよ。
 こんなのまるで、私が来るのを待っていたみたいじゃない。

「私、お嬢さんに訊いてみたかったのよ。ねえ、どうして短剣を持ち帰らなかったの? 私は確かに貴女のお姉さんに方法を教えたわ。せっかく短剣まで用意してあげたのに。お姉さん、可愛い妹のために必死だったのよ」

 そんなこと、私だって知っているわ! マリーナ姉さんは私のために危険を侵して海の魔女を探してくれた。そんなこと、私だってわかっているのよ。

「マリーナ姉さんの気持ちは嬉しかったわ。姉が私に向けてくれた愛情は本物だった。でも私は断ったの。人魚に戻るつもりはないってね」

「どうして?」

「後悔していないからよ!」

「本当に?」

 この人といい、マリーナ姉さんといい、試されているようで嫌になる。

「ねえ、お嬢さん。私もかつては貴女と同じだった。人間に恋をして、ともに生きるために永遠を捨てた。けれど現実は甘くはないのよ。いつしか私は老いていく自分が許せなくなっていた。お嬢さんにもいずれわかる日が来るはずよ」

 マリーナ姉さんも、海の魔女も、どうして決めつけてしまうのかしらね。私、これでも一度人間としての人生を終えているの。老いることの意味も、誰かと一緒に生きることの意味も、ちゃんと知っているわ。

「朝を迎えるたび、鏡を覗くことが耐えられなかった。同じ境遇のお嬢さんと自分を重ねていたのね。昔の自分を見ているようで、可哀想で、つい助けてあげたくなってしまったの。言ったでしょう、未来が見えないって。いずれお嬢さんは私と同じ運命を辿る。王子様のことは忘れた方が賢明だと思わない?」
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