転生人魚姫はごはんが食べたい!
「お嬢さんがそばにいる限り、もう二度と王子様に手出しはしないと約束するわ。これで満足ね? さあ、早くお帰りになさい」

 海の魔女は言うだけ言って海に潜ってしまう。このまま泳いで逃げるつもりかもしれない。

「待って!」

 引っ掻きまわして、勝手に旦那様を巻き込んで、こんなところまで連れてきたっていうのにそれで終わり?
 それに、その髪の色は……旦那様と同じ……

「待っちなさい!」

 ここで飛び込めば私なら追いつける。追いかけて、今度こそ全部問い詰めることも出来る。でも旦那様は飛び込もうとした私を引き止めた。

「行かなくていい」

「でも! もしかしてあの人……」

 髪の色が同じというだけで核心はない。でももしかしらたらあの人は、旦那様のお母様かもしれないんですよ?

「ここにいてくれ。たとえあれが誰であったとしても、俺はお前にそばにいてほしい。エスティがいればそれだけでいいんだ」

 私よりも訊きたいことがたくさんあるはずなのに。それなのにこの人は私を選んでくれた。私にそばにいてほしいと望んでくれた。
 もう、あの人のあとを追いかけようとは思わなかった。私たちはずぶ濡れだったけど、旦那様といられるのなら温かいもの。私はこの温もりから離れられなかった。

「ずっとお前に言えなかったことがある」

「はい」

「俺の母は人魚だったと、昔父に教えられたんだ」

 それで人魚が人間になれると知っていたんですね。

「けど俺は、おそらく父もだが、人魚の永遠の命を持つとは知らなかったんだ。ずっと捨てられた理由を考えていたんだが、そうか……あの人は後悔していたんだな」

「旦那様、それは!」

「いや、聞いてくれ。俺は許されたかったんだよ」

「え?」

「母に捨てられて、海で溺れて、俺は誰からも必要とされていない人間なのかって絶望してた。そんな俺を救ってくれたのがお前だ」

「私、ですか?」

「お前は綺麗だったよ。青い瞳に俺だけを映して、母からさえ与えられたことのない歌を、俺だけのために歌ってくれた。あの感動がずっと忘れられなかった。同じ人魚であるお前に愛してもらえたら許される気がしたよ。だからお前に愛されたかった。もう一度、俺だけのために歌ってほしいと思った。……悪い。気分のいい話じゃなかったな」
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