転生人魚姫はごはんが食べたい!
「いいえ! 私はもっと旦那様のことが知りたいのです! 何を考えているのか、昔何があったのか、誰よりも知っていたいのですわ。ですからどんなことでも話して下さい。それがきっと、夫婦というものなのでしょう?」

「ああ。エスティこそ、愛のこもった歌、聴かせてくれよ」

「これから何度だって歌いますわ。飽きるほどたくさん聴かせて差し上げます! ああ、でもそういえば……」

 すっかり忘れていたけれど、歌は人魚の求愛方法なのよね。

「私は人間になったのですから、人魚の求愛方法は古いかもしれませんね」

 でもご安心下さい! 私は人間の求愛方法も心得ているのです!

 旦那様の首に腕を回して引き寄せて、自分は背伸びをして唇を重ねた。それが人間の、愛の示し方だ。触れるだけのキスをして目を開くと驚いた旦那様の顔が一番に見える。
 吐息の感じる距離で微笑み、私たちはもう一度キスをした。

 けれど幸せな時間が過ぎるのは早い。そう……いつまでも甘い時間に浸ってはいられないのよ!
 残してきた問題がね? お城の方とか、ニナとかエリクとか……今頃心配しているわよね!?

 まず驚いたことに、船には私たち以外の人間は乗っていなかった。
 え、じゃあどうやって動かしていたのと目を見張る私に、旦那様も原理を知らないと言う。
 え、海の魔女の力とかですか? そんな力はないと思うけど、泳ぎ去ってしまった後なので真相は闇に消えた。

 やはりここは私が旦那様を連れて陸まで泳ぐべきかしらと考え始めたところで船は進路を変える。陸から離れるばかりだったのに、波に揺られてくるりと向きを変えていた。
 風のせいではないようね。私たちは不思議な体験を目の当たりにしていた。まるで海から追い出されているみたいね。
 私はとっさに海を振り返り、遠く海の底にまで届くよう声を張る。

「海の魔女! マリーナ姉さん! みんな、そこで見ていてー!」

 私の幸せを、この人の隣で笑っている姿を。人魚が永遠に生きるというのなら、その瞳に刻んでいて下さいね。
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