転生人魚姫はごはんが食べたい!
「ごめんなさいね。少し感動していただけなの。こんなに綺麗にしてもらえて嬉しくて!」

「当然のことをしただけですよ?」

「その当然が嬉しかったから、私は遠慮なくありがとうって言わせてもらうわね」

「あ、ありがとうございます! でも本当に、そのような気遣いは不要ですから! 奥様はもう、このお城のもう一人の主様なんですからね!」

 私、そういう認識でいいの?

 確かにラージェス様の妻にはなった。イデットさんからも、とても丁寧によろしくされている。妻とは一般的に屋敷の女主人として扱われ、夫の留守を守ることが仕事になるわけだけれど……。

「申し遅れました。私は今日から奥様の専属となりましたので、これからよろしくお願いします!」

「専属?」

 ぺこぺこと頭を下げる度に少女のおさげにされた赤毛が盛大に揺れた。

「はあ……ニナ、まずは名前を名乗りなさい」

 私が困惑していると、呆れた声でイデットさんが助け舟を出してくれる。失態に気付いた少女はさらに速度を上げて頭を下げた。

「すみません、すみません! 私、ニナと言います。よろしくお願いします!」

 勢い余った自己紹介が終わるとイデットさんは次はもっと落ち着いて挨拶なさいと注意をしていた。それよりも私は事情が呑みこめていない。

「奥様。本日より専属の侍女としてこのニナをおそばに置くことをお許しいただけませんでしょうか」

「そこまで私に気を遣う必要はないのよ」

「いいえ。奥様に不自由があってはいけません」

 そういうものなのかしら? 確かにこれだけ立派なお城ですもの、見栄えというものを大切にしているのかもしれないわね。奥様に一人の侍女も付いていなければ何を言われるかわからないもの。

「ニナ、貴女は旦那様に奥様の準備が整ったことを報告してきなさい」

「かしこまりました!」

 そうして彼女が去った部屋には私とイデットさんが取り残された。

「奥様、率直な意見をお聞かせ願いたいのですが、ニナはいかがでしたか? 先ほどはああ申し上げましたが、もしも不安を感じるようであれば世話役を外しても構いません」

「どうして?」

「あの子は優秀な子です。一般的な侍女の役目もそつなくこなすでしょう。ですが、少々緊張に弱い面があるのです」

「そうなの。でも貴女は、それでもあの子を私の専属にしたい理由があるみたいね」
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