転生人魚姫はごはんが食べたい!
 旦那様はさらりととんでもないことを言ってくる人、ということは今日一日で身をもって学ばせてもらいました。耐性のない私はその度にどう答えればいいのかあたふたしてきたけれど、夜にもなれば多少なりとも受け流すスキルが身についている。

「この城の一員として迎えてもらえたこと、とても嬉しいですわ」

 いつまでも狼狽えてばかりの私じゃあないのよ!

 私も成長しているのだと密かに胸を張った。

「けど、さすがに疲れたろ? 今日は連れまわして悪かったな」

 連れまわすと言っても全部お城の敷地内ですけどね。どれだけ広いのよと途中で心が折れそうになったのは内緒よ?

「なかなかに広いお家でいらっしゃいますわよね」

 少し意地悪な言い方だったかもしれない。きっと心のどこかには、多少なりとも城中連れ回された不満が燻っていたのだ。旦那様が気にせず受け流してくれたことは幸いだった。

「そりゃ仕方ないさ。大昔の話だが、昔はここがリヴェールの王都だったらしいぜ」

「それでこんなに大きなお城が……え、ということは、ここは王都ではない? 旦那様がいますし、お城もあるのでてっきり王都なのだと思っていました」

「いや、こっから王都までは結構あるぜ。王都の奴らにしてみたら田舎の港町ってとこだな。気になるって言うんなら、いつか連れてってやるよ」

「まだ見ぬ王都での食事を楽しみにしていますわね」

「おう、楽しみにしとけ!」

 そう言って旦那様が立ち止まる。やっと目的地こと私の部屋に到着したらしい。私は明日から一人で出歩けるのだろうか。

「じゃ、また明日な。朝も一緒に食べようぜ」

「え?」

「ん?」

 固く閉ざされた扉の前、軽く告げて去ろうとする旦那様に拍子抜けしているのは私だけ?

「私、一人で眠っていいのですか?」

 私たち一応、夫婦なのよね?

 あまりにも話題にすら上らないので私から聞いてしまう。ここまで言えば旦那様にも私が言いたいことは伝わったらしい。
< 47 / 132 >

この作品をシェア

pagetop