転生人魚姫はごはんが食べたい!
「確かに俺たちは夫婦だな。けど言ったろ? 俺はお前に好きになってもらうのを待つって。だから今はまだいいんだ。お前に無理はしてほしくない。それにまだ式も挙げてないしな」

「するつもりがあるのですか?」

「安心しろ。ちゃんとお前が俺のこと好きになるまで待つよ。だから、その時が来たら式を挙げさせてくれ。お前の花嫁姿も見たいしな」

 仕事一筋で前世を終え、生まれ変わった私にもウエディングドレスというものに憧れはあった。

 一度は着てみたいって、きっと誰だって憧れるわよね? そうですよーだ。前世は独身のまま生涯を終えましたが何か!?

 もうこの話は止しましょう。私の心がすり減るわ。まあ、今生では私にはもったいないほど素敵な旦那様に恵まれたことですし、それで良しとします!
 旦那様にはああ言ったけれど、私だってそれなりにポジティブなのよ? 正妻だろうが王太子妃だろうが、結婚してしまったものは仕方がないわよね!

 私が自分を励ましている横では旦那様が決意を新たにしていた。

「けど、いつまでも一人で寝るのは寂しいからな。早くお前に好きになってもらえるよう、頑張るとするか!」

「随分と自信があるのですね」

「自信なんてあるかよ。これでもお前に好かれたくて、せめて嫌われないように必死だ。言っとくが、これも作戦の内だぜ?」

 だから無理を強いることはないと旦那様は重ねて言った。確かにここで無理やりにでも部屋に連れ込まれていたら嫌いとまでは言わないけれど、好きになることは難しかったと思う。

「それとももう好きになったか?」

 本気の発言ではないことは口調から伝わっていた。だから私もその問いかけに便乗させてもら。

「旦那様の戦いは始まったばかりなのです」

「ははっ、まだまだ先は長そうだ。あんまりにも長びくようなら、せめて子守歌くらいは聴かせてくれよ。昔、歌ってくれただろ? お前の歌、好きだぜ」

「申し訳ありませんが、人魚は歌を安売りしないのです」

「金か?」

「私たちは金銭では動きませんわ」

「菓子か?」

「ま、まあ、確かに少し揺らぎますけれど……」

「お前も揺らぐのかよ!」
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