クール系おネエさまに溺愛されてますっ!
こんなチャンス、逃したくないの
「はあ…今日もカッコよかったぁ…」


ガサリ、とコンビニで適当に買ったデザートが揺れる。

学校帰りのコンビニ、そして家までの帰り道。

私は熱くなった頬を両手で押さえて冷やした。

まだドキドキが治まらない。

胸が高鳴ってうるさい。

袋を手渡された時に触れた指先が、火傷をしたかのように熱い。

♦️

夕方の6時からレジに立っているあの人。

スラリとした長身で艶やかな黒髪、ウルフカットがスタイリッシュで黒縁メガネをかけた、あの人。

購入したデザートなんてどうでもよかった。

何を買ったのかさえも覚えていない。

目的はデザートではないから。

あの人に会いに私は1週間に1度、あのコンビニに通っている。

本当は毎日通いたいけど何も買わない訳にはいかず、お小遣いがなくなってしまう訳で…。

知っているのは6時からのシフトと胸に着いた名札だけ。

『笹原 唯斗』

心の中でその名前を何度転がしたことだろう。

会話という会話なんてしたことないし、いらっしゃいませとありがとうございましたしかその唇から零れたことがないものだから、強欲にももっと笹原さんに触れたいと願ってしまう。


「もっと、近づいてみたいな…」


見た目から察するにきっとちょっと歳上の人。

私はまだ高校生だし相手にしてくれるかも分からないけどやっぱり、どうしても笹原さんのことが知りたくなってしまう。

歩きながらどうしようどうしようと考えてる間に家の門は既に目の前。


「告白、するしかないのかな」


もっと冷静に、とか距離が縮まってから、とか彼女いたらどうするの? とか頭の中がぐるぐるする。

そもそもダメだったらどうしよう。

1週間に1度来る客のことなんて覚えてないよね…。

薄闇の中、門に手をかけたまま俯いてしまう。


「…どうしよう」


告白できる勇気があったら。

もっと距離を縮められる位置にいたら。

そうしたら何かが変わっていたのかな。


「…あら? 鍵忘れちゃった?」


「…え?」


「やぁね、今物騒だから女の子ひとりじゃ危ないわよ。最近暗くなるのも早いし」


「…え、あ、ちょっ」


待って、思考が追いつかない。

振り向いた先にいたのは大好きな、コンビニ店員さんの。


「待ってこれじゃアタシが不審者かしら。斜め前に住んでるんだけど」


黒縁メガネで、ウルフカットで、レジ越しでしか見られなかった、あの。

…待って。

アタシ、ってなんだろう。


「ごめんなさいね、急に話しかけちゃって。ご近所みたいだから仲良くして頂戴? アタシは…」


「笹原、さん」


「やだ知ってたの?」


「知って、ました。あの、鍵忘れちゃったのでお家、入れてくれませんか。両親もいなくて」


両親が仕事でいないのは本当。

鍵を忘れたのは嘘。

私、悪い子になっちゃった。


「いいけど…散らかってるわよ?」


「構いません」


こんなチャンス、逃したくないの。

私はガッツポーズを我慢して笹原さんの後についていった。

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