スイセン
…外から車の走行音が聞こえ、カーテンの隙間から漏れる陽の光で目を覚ました私。

「んー…」

ごそりと体を動かすと、自分の頭が麦野さんの腕に乗っていることに気づいた。

どうやら、2人ともそのままソファで眠ってしまったみたいだ。

私が動いた衝撃で、天井を向いた彼の瞳がゆっくりと開いた。数秒の沈黙の時間。

ここはどこだ?というように目を細めてから隣に“何か”あることに気づき、ゆっくりとこちらに目を向ける麦野さん。

「…!?」

声にならない声と共に私たちは飛び起きた。

「あ、あの…」

「えっと…俺、なん、で……」

言いかけて、彼の視線が私の胸元へ移動する。

私もそれに合わせて自分の胸元に視線を下ろした。

「えっ」

乱れた私の胸元。慌てて両手で隠し、麦野さんを見上げた。

「え、俺……うわぁごめんなさい!すみません…!!すぐ離れますんでっ!!」

慌ててソファの下に行き、正座して謝る彼を見て、必死に記憶の断片を思い出そうとする私。

「いえ、あのっ。ちょっと待ってください…っ」

あの後、緊張と酔いで体が火照った私は胸元のボタンを少し開けていて…その時彼は?もう眠ってしまっていたような…。

ということは、、
「だ、大丈夫ですっ!私たち別に…」そう言おうと口を開きかけた時。

ヴーッ ヴーッ

彼のスマホが床の上で振動し始めた。

スマホの画面を確認した彼は、青ざめて自分の上着やらカバンやらを手に取り始める。

「ああああのっ!とにかく、本当に本当にすみませんでした!!」

深々と頭を下げて、駆け足で家から立ち去ってしまう麦野さん。

「は、はい…」

彼の勢いに押され、何とか絞り出した返事の言葉で彼を見送った。

どうしよう。きっと麦野さんは誤解したままだ…。
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