婚約者は野獣


side 永遠



祝宴が始まってもう何時間経っただろう


どれだけ飲んだのか
お腹が酒でタプタプしてる


それに・・・

・・・苛々する


「若、おめでとうございます」


何十回も聞いたこの言葉に


「あぁ」


遂に相槌しか打たなくなったのは何人目だったか・・・


更に


隣に座る千色の前に出来た人集りは
楽しそうで笑い声が絶えない


そもそも男所帯の木村組《うち》で
女は三人しか居なかった


そこに千色が入っただけで
何故囲まれてる


「若姐さん、先生なんっすね〜」
「ちょっと叱ってみて下せぇ」
「俺、熱無いっすか?」


漏れ聞こえてくる声に
怒鳴り散らしたい衝動を抑えるので必死

くだらないやり取りを
もう何時間もの間嫌な顔ひとつせず
笑顔で聞いている千色の態度も気に入らねぇ


・・・もう我慢の限界


「千色、行くぞ」


千色の腕を引いて無理やり立たせると


「え?ん?」


どうしたの?と言わんばかりに俺の顔を覗き込んできて


「「「えー連れて行くんすか」」」


組員達のブーイングにひと睨み返せば
パタッと一瞬静まり返った


「親父、もう寝るぞ」


此処を出る理由を親父に向かって打つけると

ケラケラ笑った親父は


「永遠、嫉妬深けぇな」


目尻の涙を拭うほど笑いやがった


「上等だ」


小せぇ男で結構

嫉妬深い男で結構


手に入れようとすると
俺の腕をすり抜けて逃げる千色を

やっと捕まえたんだ


「永遠?」


猟奇的な想いを頭に浮かべた俺を
一瞬で現実に戻すのは


甘い匂いの千色だけだ


「千色、行くぞ」


クソッ

独占するなら
マンション借りる・・・か





side out




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