婚約者は野獣

それでも・・・
今は遅刻を免れることで精一杯で


「どうしよう・・・永遠
私、マンションに帰らなきゃ」


頭にあることが口を突いて出た


「チッ」


えーっと・・・
切実なる願いを口にしただけなのに
返ってきたのが舌打ちだけとか
酷すぎませんかねぇ?


そのまま永遠を見上げた私に


「今夜から千色のマンションで暮らすか」


閃いたかのように永遠は声のトーンを上げた


「・・・え?・・・は?
何バカなこと言ってんの?」


ついいつものノリが出る


「婚約者様に“バカ”とは
良い度胸だよな?」


喉の奥でクツクツと笑った永遠は


「躾は最初が肝心だ」


そう言うと


「キャ」


私をベッドに押し倒した


覆い被さる永遠に拘束された身体は
少しも動かせそうになくて
簡単に諦める

それでも仕事と言おうとした私の唇は


「片時も離れたくねぇ」


そう言った永遠の唇に塞がれた


「んんっ」


抵抗も虚しくどんどん深くなる口付けに

ついて行くのがやっとで
やっと解放された時には

肩で息をする勢いで荒い呼吸を繰り返し

それを「可愛いな」と揶揄う永遠と見つめ合っていると


「・・・あの・・・」


突然聞こえた声に肩が跳ねた


「・・・とにかく起きて下さい」


それだけ言うと
バタバタと足音を立てて走り去った声の主


「ドア、開いたままだった」


「えーーーーーーーっっ」


朝から最大の辱めを受けた私は
着替えも無いことに朝ごはんを諦め

ハレンチ極まりない格好に
永遠のロングコートを羽織り
裸足に永遠のサンダルという

明らかにおかしな格好で木村の家を飛び出すと
大吾の運転でマンションに戻り

一時間後には
何事も無かったかのように愛車に跨った






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