婚約者は野獣


side 木村組構成員[安達剛人]


俺の仕事は未だ側近を置かない若のお世話係


凄く名誉なことなのに
朝のこの時間だけは胸が苦しくなる


何故かって?

そりゃ〜


「・・・殺すぞテメェ」
「あ゛?」
「テメェ誰だ」
「死ね」


寝起きの悪い若を起こすのはそりゃもう至難の技で

その度に浴びせられる罵声は
俺の心を少しずつ折っていく

でも・・・

目が覚めて正気を取り戻した若は


「安達、毎朝サンキュな」


酷く優しい声で労ってくれるもんだから
折れた心は瞬時にくっついて
更に気分は上がる


だけど・・・今朝は違う
親父から

「お嬢が居るからドアは開けんなよ」

そうキツく言われて送り出されたもんだから

どうやって起こして良いか分かんねぇ

そうこうしているうちに若の部屋の前に着いてしまった

さて・・・どうしよう

ドアは開けない・・・うん

もしか二人が裸だったら?
少しそれを想像して

頭ん中がピンクに染まりそうで
頭をブンブンと左右に振ると

控えめに・・・でも聞こえるようにノックをした


シーン


やっぱそうだよな・・・
揺さぶっても中々起きねぇ若が
こんなノックで起きんのか?

答えなんて出ないけど
二人が遅刻なんてことになったら大変

その思いだけで一心にノックを繰り返し「若」と声をかけ続けた


何分か・・・何十分か・・・
願いが通じたのか気配を感じた瞬間
人一人分だけ開いたドアから


「煩え!」


周りまで凍らせるほどのブリザードが降ってきた

・・・良かったハーフパンツも履いてた

っとそんなことに安心してる場合じゃねぇ


「若も若姐さんも今日は月曜です
親父が遅刻する前に起こして来いと」


此処へきた目的を伝えると
若の向こう側から


「何時?」


可愛い若姐さんの声が聞こえた


「あ?」


そう言って身体を捻った若の隙間から見えたのは

ベッドに座ったままこちらを見る
身体のラインがバッチリ出た
どエロいパジャマを着て寝ぼけ眼の若姐さんだった

・・・か、可愛いすぎるっ

「っ、6時半っす」


慌てる俺をひと睨みした若と
その向こう側でベッドから降りた若姐さんは

履いているのか疑問に思う程短けぇパンツと細くて白い太腿を晒した


「若姐さ、ん」


釘付けの視線を遮るように若姐さんを抱き締めて隠した若は


「見んな」と首だけ振り返った


・・・怖っ


その目で人を殺せるかもと思える絶対零度の視線に


「すいやせんっ」


頭を何度も下げた


俺、この役・・・無理だ

そう思う俺の前で

お二人は俺の存在なんて居ないかのように二人の世界に入ってしまい

挙句


「・・・っ」


若姐さんを押し倒した若は
目の前で濃厚なキスシーンを繰り広げた


「・・・あの・・・」


俺が真っ赤になってどうする


「・・・とにかく起きて下さい」


それだけ口にすると
甘い二人の前から逃げ出した



「ハァ」



勢いに任せて言い逃げしたけれど
ちゃんと起きてくれただろうか?


もう確認に戻るなんて無理
呆然としたまま一度部屋に戻ると


真っ赤な顔をした俺が鏡に映った



あぁ、ヤバいな
これから毎日これなら
変なあだ名付けられるぞ





side out









< 118 / 171 >

この作品をシェア

pagetop