婚約者は野獣


「礼には及ばん」


お義父さんへ向けてそう言った堂本組長に被せるように


「次からは永遠と一緒にまるちぃも
食べに来てね?」


琴ちゃんは相変わらずの窮屈なままで誘ってくれた


「あぁ、次からは一緒に」


そう言って一度私を見た永遠は
そっと手を繋いできた


“一緒”って嬉しい
そんなことを思った私

家族との離別は昨日のことなのに
気持ちはどこかスッキリもしていて

永遠と一緒に居られる今を
大切に思っている


「千色、大丈夫か?」


僅かな変化も気付いてくれるところも


安心をくれるように繋いだままの手が更に密着するところも


全部私のことを想ってくれていることが伝わって心地良い


「うん」


その瞳に映る私は
嬉しそうに笑っている


それに釣られるように
口角を上げてくれる永遠


家族と引き換えに手に入れたのは
温かくて笑顔になれる場所


そんな微笑み合う二人に


「永遠とまるちぃ、お似合いだね」


とびきりの笑顔で
“ご馳走様〜”なんて言うもんだから


顔に熱が集まるのが分かって
慌てて俯いた


合わせるように繋いだ手にギュッと力が入る


恐る恐る顔を上げれば
同じように頬を染めた永遠と目が合った


木村の家も此処も温かくて居心地が良い



居心地が良ければ良いほど


もしか・・・永遠から必要とされなくなったら


そんな不安が過ぎる


私にはもう帰る家が無い


だから・・・


いや・・・


帰る家が無いからではなくて



永遠を信じてついて行こう



もう一度永遠に視線を合わせてみれば

 


大丈夫かと言わんばかりに
少し眉の下がった表情が見えて



胸がトクンと跳ねた









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