婚約者は野獣



悪い勘は当たる






「だって、凱、千色ちゃんと二人きりで暮らしてるじゃない」


「それは、俺が千色付きだから」


「それでも不安なの」


「千紗は俺が信じられねぇのか?」


「だって」


「俺は昔から千紗だけだ」



立ち聞きしたい訳じゃなかったのに
動いて欲しい脚は言うことを聞いてはくれなくて

凱が千紗を好きで
千紗も同じだということが

私の想いを粉々にした


・・・苦しい




胸が苦しくて


私の想いが痛くて



・・・動いて


脚に想いを吹き込むように足元を見ると
手に持っていたミネラルウォーターが

水滴の所為で滑り落ちた


ガンッ



「・・・っ」


思ったより大きな音が出たことに驚いて顔を上げると


食堂へと繋がるカウンター向こうに
目を見開いた凱が立っていた


「・・・ちぃ」


「・・・」


驚く凱の腕に縋り付くように腕を絡ませている千紗も同じ表情をしていて


気がつくと駆け出していた




・・・っ



・・・っ




部屋に飛び込むと
また鍵をかけて


ベッドの中に潜り込んだ



追いかけてきたのか扉を叩く凱の声が
暫くは聞こえていたけれど


無反応の私に諦めたのか


そのうち


何も聞こえなくなった











ねぇ、凱

何百回、いや、何千回もした

「好き」って告白を
どんな気持ちで聞いてた?



千紗と想いあっているのに
私と二人の生活は苦痛じゃなかった?



ねぇ、凱


なんで千紗なの?


私じゃなくて


なんで・・・


なんで千紗なの?








< 34 / 171 >

この作品をシェア

pagetop