婚約者は野獣


帰省二日目の朝食は
結局食べず仕舞い

空腹に耐えかねた昼食には
態と遅れて食堂に入り

全員の視線を集めたところで


手に持っていた紙を
父の側近である東山さんへと渡した

それをひと読みすると驚いて父に視線を移した東山さんに

父は大きく頷いた

それを見届けた後で
目の前に座る組員へ向けて
顔を上げた東山さんは声を張り上げた


「通達」


その言葉の重みに
その場にいる全員が居住まいを正した


「一つ
 小島凱を千色お嬢付きから外す
 二つ
 麻生大吾《あそうだいご》を千色お
 嬢付きとする
 三つ
 千色お嬢に話しかける場合は
 直接ではなく麻生を通すこと
 以上」


東山さんの声が止むと
シンと静まりかえった食堂に
更に重い空気が流れた

特に斜め前に座る凱はこちらを向いたまま鋭い視線を打つけてくる

一度それに視線を合わせて
態と逸らした


朝まで悩み考えた結果が
さっきの通達へと形を成した

私情丸出しと言われたら
迷いなく「そうだ」と答える

私情だとしても

読み上げられた以上
覆ることはない

三つ目の“話しかけるな”という
鬼畜のような一文は

最後まで渋った父も
私の決意が揺らがないことに諦めた結果だった
 


水を打ったような静かな食堂


それを打ち破るように
上座の中心に座る父がパチンと手を合わせた


「「「いただきやす」」」


いつもと違って勢いのない声を聞き流し
目の前のお碗を手に取った





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