婚約者は野獣


「大吾、彼女は?」


「ここ暫くは居ない」


「料理は出来たよね?」


「あぁ、洋食が中心だけど
一通りは出来るし
必要なら他も覚える」


「そうだね、私も手伝うし」


「え?お、っ、千色も?」


「そうだよ、変?」


「・・・いや、変じゃねぇ」


「じゃあとりあえず荷造りしてきて
えっとね・・・服と下着と身の回りで必要な物ね
殆どマンションに揃ってるから
必要ないものは置いといて」


「承知」


大吾だけを部屋から出すと
また鍵をかけた


麻生大吾は凱の前に二年間私に付いていた男

年齢は凱と同じだけれど
凱より二年先に森谷へ入っていて
普段は東山さんの下に付いている

中学を卒業して二年程親戚の経営する洋食屋さんの厨房で働いていたらしく
よくオムライスを作って貰っていたから

凱の次に気を許せる相手だと思う

気配り上手で顔も中々のイケメン
喧嘩も強いと聞いたことがあるし

何より話しやすい


だから
凱を外す時に一番に頭に思い浮かんだのが大吾だった


10分程度で扉がノックされ
大きなトランクと共に大吾が戻ってきた


「お、千色、向こうでの暮らしを
一通り聞いておきたい」


スッと正座をしてベッドに腰掛ける私を上目遣いで見る大吾


「ソファに座って」


「あ、あぁ」


立ち上がってソファに座ると
目線の高さが合った


「東白へは自転車で通勤してる
大吾は朝夕の自転車での並走と
後は・・・家事かな?
私が仕事の間は好きにしてて良いからね」


「・・・承知、あ」


バツの悪そうな顔をする大吾に


「フフフ、良いわよゆっくりで」


「助かる」


「マンションは東白の借り上げで
上層階には一ノ組の若頭と婚約者、側近が住んでる」


「・・・っ」


一ノ組と聞いて驚いたのか
背筋が伸びた


「一昨日エレベーター前で会ったけど
エレベーターも私の使う下層階とは違うし
声を掛けることもないから大丈夫
マンションのコンシェルジュの内の二人が堂本組らしいから困ったら聞いて
ま、とりあえず今日紹介するから」


「・・・分かった」

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