婚約者は野獣


GW・・・10連休の二日目

大幅な予定変更で
夕食の前に帰ることになり
両親へ挨拶するために
大吾と二人で部屋を出た


「お嬢」


扉を開けた先に凱が立っていた

チラッと大吾を見上げると


「凱、控えろ」


低い声が凱を止めた

それなのに


「ちぃ、話を聞いて欲しい」


頭を下げたままの凱から聞こえた声は
酷く震えていて

一瞬、決心が揺らぎそうになる

それをお腹に力を入れて堪えると
ちゃんと千紗のことだけを想えるように
寝ずに考えた酷い言葉を頭の中から引き出した


「千紗と二人で私の気持ちを弄んで・・楽しかったでしょう?」


「違うっ」


「父さんに頼んで千紗付きにして貰えば良かったじゃない!
あぁ、これから頼むのか・・・
ま、邪魔者は消えるから精々楽しくやってよ?」


「・・・ちぃ」


「あ〜、これ以降名前で呼ばないこと
私に直接話しかけないこと!
もう二度と近づかないこと!」


そこまで吐き出すと
泣きそうになるのを舌先を噛んで堪え

頭を下げたままの凱を置き去りにした











「千色、あれで良かったのか?」


帰りの車の中で
ルームミラー越しに大吾が眉尻を下げた


「あれくらい突き放しておかないと
変な義理立てして千紗とも離れそうでしょ?」


「・・・凱ならそうする」


「でも、黙ってたのは許せないから
少しくらい意地悪しても良いよね?」


「全然大丈夫だろ、それを
受け止められねぇ凱じゃねぇ」


「だよね」


「混んでるから寝てて良いぞ」


「そうする」


夕暮れ時の空を見ながら
ゆっくりと意識を手放した














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