私たちは 簡単に繋がり合い 傷つけ合う
天気の良い昼下がりの静かな公園には、私と辻以外誰もいない。
タコの形の古ぼけたすべり台を背にして、私と辻は向き合って、珍しく見つめ合っていた。
「おまえにプレゼントがあるから、目、つぶって。」
ムッとしたような表情で、言いづらそうに辻が言った。
「…もしかして、第二ボタン?」
私はわざと明るく言った。
公園は木々がうっそうと茂り時おり風が吹く。中学の校庭ではしゃぐ卒業生達の楽しそうな声が、ここまで届いて聞こえてくる。私は正直学校に戻りたいような心細いような気分だった。
いつも大して私の顔も見ずに冗談ばかり言ってる辻が切羽詰まっている事が、とにかく居心地悪かった。

卒業式が終わると辻は私の所へやって来て、私の目も見ずぶっきらぼうに『今、ちょっといい?』と、突然声をかけてきた。吹奏楽部のメンバーともっと記念写真を撮りたかったのに仕方なく途中で諦め、私は辻の後を追いかけて学校を出た。
辻は無言で校庭裏の小道を抜けてこの公園に入ると、まるで決めていたかのように迷わずこの場所で立ち止まったのだ。

私は恐々、そっと目を閉じた。
辻は一体、何を渡したいというのだろう。

私は中ニの時からずっと辻の事が好きだった。先月お互い第一志望の高校に受かって卒業したら別々の学校に通う事が決まった。私は勇気を出して告白をした。けれど「他に好きな人がいるからごめん」と言われて振られてしまった。

土を踏みしめる足音がゆっくりと近づいてくる。そしてすぐ近くで立ち止まった。少しの間が空いて、辻の気配を感じ取ることに集中していると、思いがけず唇に、温かくて柔らかいものがそっと触れた。
それは本当にほんの一瞬だった。
驚いて目を開けると、眼鏡を取った辻が怒ったような困ったような顔をして目の前にいた。
「それ、ファーストキスだから。」
そう言って、辻はすべり台の向こう側へ走って居なくなってしまった。

真っ赤なタコのすべり台の内側はマジックペンで卑猥な言葉や悪口が所狭しと書き殴られていた。いつの間にかそれらが、ペンキで真っ黒に塗りつぶされて無くなっている事にふと気づく。
私は公園の真ん中で、一人立ち尽くしていた。気づくと両目から涙が溢れ、セーラー服のプリーツスカートをポロポロと滑り落ちる。今日でこの制服を着るのも最後なのか、と思うといつまでも涙が止まらなかった。
卒業式の日、私のファーストキスは、心の準備もないまま辻侑人にあっけなく奪われてしまった。
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