私たちは 簡単に繋がり合い 傷つけ合う
大学四年の冬、辻と私は再会した。
就活も終わって、短期のアルバイトをしようと面接会場に向かう途中、偶然向こうから歩いてきた辻と目が合った。
彼は目を見開き立ち止まった。私と彼の記憶の中の点と点とが、つながった瞬間の様なものをその時感じた。
「矢沢?」
彼は言った。あの頃と変わらない声で。
「辻…。」
重そうな前髪の向こう側で、離れ気味の瞳が驚いた色で私を見つめた。
「お前…久しぶりだなぁ。」
私は頷いた。短髪で眼鏡だったあの頃の辻とは全然違う見たことのない辻が目の前に立っている。
私はどうしてか気持ちが張り詰めていくのを止められず、自分でもびっくりするほど冷たい声を放っていた。
「辻、ごめん。私、今めちゃくちゃ急いでるの。ごめんね!」
私はアルバイト先の本社が入っているビルの方向へ向かいとにかく走った。
時間に余裕が無い訳じゃなかったのに、どうしてそんな嘘をついてしまったのかよく分からなかった。
本社のビルに着き、とりあえずカフェにでも入ろうかと思い、エレベーターに乗る。静かな空間に入ると途端に、まるでリトマス試験紙みたいに、私の頭の中を辻がじわりと支配していくのが分かった。
あの頃の子供っぽさは消えて無くなり、どこか甘ったるい雰囲気をまとった彼は、まるで辻じゃないみたいだった。
思わず携帯電話のアドレス帳を開き、辻の連絡先が入っているか確かめる。高校1年の頃のメールアドレスなら残っているはずだった。
『さっきはごめんね。せっかくだから今夜ご飯行かない?辻に予定がなければね。』
カフェで散々悩んだ末に、私は辻にメールを送信した。そして面接へ向かった。
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