白雪姫に極甘な毒リンゴを 短編集

 それは嫌!

 虎ちゃんともう会えないなんて
 絶対に嫌!


 そう思った時には
 カーテンから抜け出して

 部屋のドアを開けようとした
 虎ちゃんの背中に
 ギュッと抱き着いた。


「……清香?」


「私、虎ちゃんが大好きだもん。
 ずっとずっと一緒にいて欲しいくらい
 大好きだもん。

 でも、嫌なの。
 お客さんとは楽しそうに
 笑いあっていたのに。
 私にはたまにしか微笑んでくれなくて。

 本当に虎ちゃんが私のことを好きなのか
 自信がなくなっちゃうんだもん」


「だから清香には……
 お店に来て欲しくなかった」


「え?」


「できれば、店に立つときの自分を
 一生、清香に隠したいくらいだった」


「……なんで?」


「お客さんに必死で笑顔を作ってる俺って
 自分でもすっげー大嫌いだから。

 俺は子供の頃からさ
 家の手伝いをさせられてるから
 客の前では笑えって言われ続けてきた。

 でも俺はさ
 兄貴たちみたいに器用に笑うとか
 できなくて。

 でも、客商売だから
 笑えって言われ続けてさ。

 最近はやっと
 普通に接客できる程度には
 笑えるようになったんだ。

 でも、無理して笑った後ってさ
 なんか虚しさみたいなものが
 襲ってきてさ。
 暗い気分になるんだよ。

 そんな情けない俺のこと
 清香には絶対に見られたくなくて。

 だからお前には
 店に来て欲しくなかった」


「虎ちゃんが情けないなんて……
 そんなこと……」

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