白雪姫に極甘な毒リンゴを 短編集

「清香はさ、
 俺がお前のことを助けてくれるって
 言うだろ?
 でも俺も、同じこと思ってるから」


「同じことって?」


「清香の笑顔に
 俺の方が救われてるから。

 俺さ、自分が情けないって思うことが
 本当に多くて。

 俺を慕ってくれる奴らに
 弱いところを見せたくなくて
 見えを張ったりさ。

 お前に笑いかける男たちを見て
 俺が彼氏で本当に良いのかなって
 弱気になったりさ。

 でも清香が俺の隣にいてくれて
 ちょっとしたことで
 声を出して笑っているところを見ると。

 なんかこう、心が温かくなるっつうか。
 心のモヤモヤを吹き飛ばしてくれてさ。

 お前の笑顔がないと、俺、ダメだなって
 よく思うんだ」


「でも虎ちゃん、泣く子は大嫌いでしょ?

 私はもう、
 虎ちゃんの前で笑い続けるのは
 ムリだよ。

 きっとまた、こうやって、
 虎ちゃんの前で泣いちゃうから」


 私の言葉を
 ずっと背中越しに聞き続けていた
 虎ちゃんが
 私の腕からするりとぬけて
 ぐるりと私の方を向いた。


「清香……
 顔をあげて……」


「嫌だよ。
 こんなぐちゃぐちゃな顔
 見られたくないもん」


「お願いだから」


 涙があふれて止まらないまま
 私は虎ちゃんを見上げた。


 穏やかに微笑む虎ちゃんの瞳が
 優しく私を見つめている。


「笑っている清香に惚れたけど、 
 泣いているお前も、かわいいな」


 心にしみわたるような優しい声が
 私の脳に届いた時には
 虎ちゃんの優しい瞳から
 目が離せなくなっていた。
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