桜田課長の秘密
ああ、思った通りだ。

限りなく無機質で、けれども繊細ではかない……
彼の書く文章そのままの空気をまとって。

薄い唇、すっきりとした鼻梁。
切れ長の二重は、極端に目尻が下がっていることで退廃的な色気を醸し出している。

風呂上りなのだろうか。
濡れた黒髪から、ポタリと雫が垂れたのを見た瞬間。

この人は、危ない――――

心の中で警鐘音が鳴り響いた。

父さんに刷り込まれた言葉が、頭の中で渦を巻く。

『あの男が悪い、あのタチの悪い男が母さんを変えてしまったんだ』
『いいか、男を信用するな』
『母さんみたいにはなるな』

毎夜、呪詛のように繰り返されるそれは、心の奥深く染み込んで、気がついたら男性を受け入れられなくなっていた。

純粋な好意にも、裏があるんではないか。
優しく見えて、本当は酷い男なんじゃないかと。

きっと世の中には信用のおける男性(ひと)も、沢山いるんだと思う。
問題は私の心の持ち方なんだ、というのも分かっている。

けれどこの男は――
間違いなく本物の〝タチの悪い男〟

男性不信ゆえの過剰な警戒心などではなく。

たとえるなら、女をたぶらかす毒蜘蛛――

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