幼なじみの彼とわたし
「…できなかったら、俺がもらってあげる」

思わず口から出てきてしまった言葉。


“もらってあげる”って、俺も偉そうなことを言ったもんだな。
むしろ、“俺をもらってください”のほうが今の俺たちには合ってるのに。


でも、この言葉は亜衣には届いてなかったみたいだ。
「今何て?」って聞き返してきた。
もう一度言う勇気はない。

ごまかしてみたけれど、何も言葉が続かなくて。
亜衣がじっと俺のほうを見ているのが視界の隅に入ってくる。


俺ばかり気持ちが大きいのが悔しくて、左手で亜衣の右手を握ってみる。
俺のちょっとしたアピール。


「亜衣、今日は手を繋いで帰ろう」

にこっと笑ってはいるけれど、心の中ではドキドキだ。

亜衣は口数が少なくなったところをみると、かなり戸惑っている様子だが、拒否はしてこないようす。
受け入れてくれたのか、本当に酔っていると思われたのか。
よくわからない。


さらに「久しぶりだね、手を繋ぐの」なんて、かわいらしいことを言ってくる。


ヤバイな。


亜衣の家で休んで帰ろうと思っていたが、いろんな感情でいっぱいの俺は、まっすぐ送ってそのまま自分の家に帰ってきた。


そろそろ気持ちが押さえきれなくなってきた自覚はある。
でも、心のままに行動していいものか。
亜衣の気持ちが俺に向いてくれればいいが、もし向いてくれなかったら?
今の関係が崩れてしまったら?

あぁぁー、どうしたらいいかわかんねぇ。
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