トワイライト(下)
「悪いけど、そのまま片付けに入って頂戴」
店に入るなり彼女は此方に向かってバイト用のエプロンを投げ付け、訪れる客や待機客の対応に血相を抱えていた。
そのままエプロンを着けながら部屋状況を確認し、トレーとクロスを片手に部屋の片付けに取り掛かる。
掃除するごとに部屋の電話を鳴らして知らせ、最後に化粧室を点検してから受付に足を運ぶ。
すると、店内は嘘みたいに静まり返り、彼女も漸く安堵の息を零した所だった。
「本当に助かったわ……ありがとう」
「別にいいよ、これくらい」
溜まった伝票に手を掛けると、彼女は優しく制するように言う。
「あとは一人で平気だから、たまには先に待っててあげなさい」
その言葉に促されるように携帯を取り出して眺め、夕方過ぎを印した時刻に彼も終わる頃かとエプロンを外す。
「ありがと、食事に行く約束忘れるとこだった」
「相変わらず仲が良いのね、羨ましい」
茶化しながら彼女は此方を舐めるように見回して不敵な笑みを浮かべる。
「こ、れは、たまたま間違っただけ……」
良く見もせずに着てしまったトレーナーに気付き、いつもより一回り大きいサイズに少し照れくさくなった。