異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「殿下、どうせこういうこと話してなかったんでしょう。大事なんですよ、ちゃんと自分の気持ちを口にしたり、相手を褒めたりするのって。お城の使用人とは違って、みんながあなたに気を遣ってくれるわけじゃないんですから。私たちのような一般の者を相手にするなら、人と人との付き合い方を学ばないと」
「……そうなのか? ベイルの言っていることは合っているのか? 俺はなにか間違っていたか?」
「え、ええと……。そうですね、確かに褒めてもらえると嬉しいです。アルトさんのことをまだよく知らないので、気持ちを伝えてくれるのもありがたいし」

 そこで止めようとしたのだが、ベイルさんが私に目配せして、口の動きだけで『もっと言ってやって』と伝えてきた。ほ、本当に大丈夫なのだろうか。

「あと、相手の返事を聞く前に行動するのはやめたほうがいいかもしれません……」
「そ、そうか。気をつける」

 ドキドキしながら伝えると、しゅん、とした様子で素直に頷くアルトさん。

 悪い人じゃない、というのはさっきも感じたけれど、アルトさんは単に庶民との付き合い方がわかっていないだけだったのか。確かに王宮の中だったら、強引でわがままでも周りは言うことを聞いてくれる。

 ただ、こうして素直に改善しようとしてくれるのだから、憎めない人なのは間違いない。

「そろそろ、本題に入ろう。まずはこいつの話を聞いてやってほしい。騎士団は今、ちょっと困ったことになっていてな。……ベイル、どこか落ち着ける場所で話せないか」
「わかりました。では、騎士団の宿舎にご案内します」

 ベイルさんは騎士団の人に声をかけて訓練を抜けると、お城と裏庭を挟んで建てられた、灰色の無骨な建物に案内してくれた。一階が食堂やお風呂など憩いの場、二階と三階が個人部屋になっているそう。

 結婚している騎士は城下町に家を持っているけれど、それ以外の王宮騎士は、有事の際にすぐ対応できるよう、ここで暮らしているのだとか。

 宿舎一階の食堂で、ベイルさんは私とアルトさんに紅茶を入れてくれた。ミルクピッチャーに入れたミルクも、カップもほんのり温められていて、ベイルさんの気遣いを感じた。
 王宮騎士団の宿舎、という慣れない場所にいるはずなのに、なんだかほっとする。

「じゃあ、改めて自己紹介するね。王宮騎士団のベイルです。いちおうアルトさまの護衛役でもあるんだけど、だいたいは勝手に外出されてしまって……」

 ベイルさんはちらっ、とアルトさんを見たけれど、当の本人は涼しい顔で紅茶をすすっている。
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