異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
 なんだか、ミレイさんの表情が日に日に曇っていく。あれから毎日、ベイルさんの来る午後に合わせて来店してくださるミレイさんは、ベイルさんに挨拶して軽く言葉を交わす関係になったのに。

「はぁ……」

 今日はとうとう、物憂げなため息までつき始めた。

「ミレイさん、どうしたんですか? ベイルさんと、なにかありました?」

 アルトさんは来ていないし、当のベイルさんは玄関前で警備してくれているのだが、ついひそひそ声になってしまう。

「いえ……、なにもないのよ。私そんなに、おかしな顔をしていたかしら」
「なんだか元気がないような気がして。お悩みがあるなら話していただけませんか……?」

 表情をこわばらせるミレイさんに声をかけると、その瞳からぽろぽろと涙があふれ出した。

「えっ、ミ、ミレイさん?」

 ちょうど来店したアルトさんも、私たちの様子を見てぎょっとする。

「う、裏に行きましょう! アルトさんも来てください!」
「来たばかりでわけがわからないのだが」

 お店を売り子さんに任せて、ぶつぶつ文句を言うアルトさんと泣き顔のミレイさんを引っ張っていく。

「ごめんなさい、急に泣いてしまって……」

 ミレイさんに紅茶を淹れると、少し落ち着いた様子だった。休憩室に来るまでは文句を言っていたアルトさんも、さすがに泣いている女性の前では紳士なのか、静かにミレイさんが話し出すのを待っている。

「ベイルさんとなにかあったわけじゃない……。でも、ベイルさんのことで悩んでらっしゃるんですよね?」

 火照った顔でふうっと息を吐いたミレイさんは、こくんと頷いた。

「私……ベイルさんのことを、お慕いしているんです」
「……はい」

 とっくの昔に知っていました、なんて言えないので神妙に返事しておく。

「つまり、恋わずらいってことだな」
「アルトさん!」

 軽いその言葉をとがめると、ミレイさんは「いいんです、その通りですから」と首を横に振った。

「あの日助けていただいてから……、日に日にベイルさんのお姿が頭から離れなくて。お話するだけで満足しなきゃと思っていながらも、どんどん苦しくなって……」

 ミレイさんが、胸元をぎゅっと押さえた。私にはこんな切ない恋の経験はないけれど、聞いているだけでこちらも胸がきゅんきゅんしてくる。

「女性のほうから気持ちを伝えるなんて、はしたないかもしれません。でも、この気持ちを伝えないと、切なくてどうにかなってしまいそうなのです」

 お嬢さまは、気兼ねなく告白もできないのか。

「伝えればいいじゃないか。女性からとか男性からとか、そんな細かいことを気にする男じゃないぞ、ベイルは」

 アルトさんは、たまにはいいことを言う。
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