異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「ミレイさんの場合は、チョコレートを渡すだけではベイルさんに意味は伝わらないと思いますが……。でも、こんなふうに勇気を出して告白出している女の子たちがたくさんいるって思えば、背中を押してもらっている気持ちになりませんか?」
「本当ね。どこの誰かも知らないけれど、同じように恋を、告白をしている人たちがたくさんいるって思うだけでも、心に灯がともるようだわ」

 よかった。これでミレイさんの勇気は後押しできたみたいだ。あとは、チョコレートの問題なのだけど……。アルトさんもそれに気付いたようで、私に向き直った。

「それで、エリー。カカオ豆の粉末があればチョコレートというものは作れるのか?」
「実は私も、チョコレートそのものをいちから作ったことはなくて……。試してみてもいいのですが、時間がかかるかもしれません」

 さすがに、お菓子作りが趣味でもカカオ豆からチョコレートを作ったことがある人はまれだと思う。

「では、どうする?」
「チョコレートそのものではなく、チョコレート味のスイーツだったら、カカオ豆を加工して作ったココアパウダー で作れると思います。チョコレートマフィンとか、チョコレートクッキーとか」

 王宮魔法使いの使っているカカオ豆の粉末 がココアパウダーに近いものだったら、簡単にチョコ系焼き菓子が作れるはず。王宮魔法使いが使っている粉末の質にもよるから、賭けではあるが……。

「まずは、カカオ豆の粉末を拝見したいです。そこから、作れそうなスイーツを考えたいんですけど……」
「わかった。ならば城に帰ったら手配して、明日持ってこよう」

 アルトさんがさらっと口から滑らせた『城』という単語に、身体がびくっとなる。ミレイさんが気付いていないといいけれど……とおそるおそる目をやると、祈りはむなしくミレイさんは首を傾けていた。

「城……? もしかしてあなたも、ベイルさんと同じ王宮騎士なのですか?」
「いや、俺は騎士ではない。でもまあ、似たようなものだと思ってくれ」
「は、はあ……」

 私がひやひやしていると、アルトさんが耳打ちしてきた。

「大丈夫だ。魔法耐性のある獣人とは違って俺の魔法は効いているはずだから、俺とした会話も明日にははっきりとは憶えていないはずだ」
「そ、そうなんですか……」
「現に俺の名前も覚えていないだろ? 彼女の中では、あの日助けたのはベイルひとりということになっているみたいだし」

 確かに、あのときアルトさんも一緒にいたのに、ミレイさんからアルトさんのことを訊かれたことはなかった。

「魔法って、便利ですね……」

 この王子がうっかり失言する性格でも、今までお忍びが大事にならなかった理由がよくわかった。

 私が感心しながらため息をつくと、「今のセリフは、なんだかバカにされた気がする」と顔をしかめられた。鋭い。
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