異世界でお菓子を振舞ったら、王子と竜騎士とモフモフに懐かれました
「あの、エリーさん。お願いがあるんです」

 私たちの様子を不思議そうに眺めていたミレイさんが、遠慮がちに切り出した。

「はい、なんですか?」
「作れるスイーツの目星がついたら……、ベイルさんにお渡しするスイーツは、私もお手伝いしたいんです。気持ちを伝えるのに、少しでも自分の手を入れたものをお渡ししたくて……。手作りのスイーツをお渡しするなんて、おかしいこと、でしょうか……?」

 ミレイさんの瞳は、不安そうだった。スイーツを贈り物にすることは普及したとはいえ、手作りスイーツを男性に渡すというのは、この国では初めての文化なのだ。

「いいえ、全然おかしくないです! バレンタインでは、本命……好きな人には手作りのチョコレートを渡す女性も多いんですよ! 恋心を伝えるときは手作りのスイーツを渡したいっていうのは、女性ならば当たり前の気持ちだと思います」
「ほんとですか……。安心しました」
「私も、ミレイさんが手伝ってくれたらうれしいです。明日カカオの粉末を品定めするとして……、あさって一緒に作戦会議をしましょうか」
「はい。私、お砂糖を扱うのは初めてなので、ご迷惑おかけするかもしれませんが……。よろしくお願いします」

 私とミレイさんは、手を取り合った。さっきまで不安に揺れていたミレイさんの瞳は、しっかり私を見つめ返してくれる。

 スイーツで恋する女の子のお手伝いができるなんて、とてもうれしい。ミレイさんの恋が成就するよう、心を込めてスイーツを作ろう。

 * * *

 待ちに待った次の日、アルトさんがカカオの粉末を持ってやって来た。

「ほら。お望みのものを持ってきてやったぞ」

 透明な瓶に入ったそれを、雑に扱うように私に渡す。

「わあ、ありがとうございます! 開けてもいいですか?」
「好きにしろ」

 蓋を開けて、粉末を手のひらに出す。濃い茶色のそれは粒子が細かくて、さらさらしていた。なめてみると、苦みとコクが口の中に広がる。

「これ、思っていたよりもずっと質がいいです!」

 それは砂糖の入っていない、いわゆる純ココアに近いものだった。焼き菓子にそのまま使えるし、生クリームに混ぜればチョコレートクリームになる。砂糖と少量の生クリームで練れば、チョコペンのように使えるチョコクリームができるかも。

 でも、その前に……。

「あの、アルトさん。これですぐに作れる甘い飲み物があるんですけれど、飲んでみませんか?」

 やっぱり、飲み物としてのココアも作っておきたい。今が冬で、ホットチョコレートのおいしい季節でよかった。

「なんだと……? チョコレートの……手作りを……?」

 喜ぶと思ったのに、アルトさんはうろたえた。意外な反応に、私も焦る。

「ダメでした……? これも新作に入るならアルトさんに、って思ったんですけど……」
「あ、ああ。そういうことか。も、もちろん賞味してやろう」

 どういうことだと思ったんだろう。合点はいかないけれど、気を取り直してホットチョコレート作りを始めた。
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