Bitter Sweet
「失礼します」


校長の家は高層マンションでとてつもなく広く、床は大理石で黒で統一されている。


書斎に案内され、ソファーに座る。


「はい、これコーヒー、砂糖もミルクもあるから」


「ありがとうございます」


校長はブラックコーヒー。


私は今でもブラックコーヒーが飲めない。まだ私も子供なのかなとか思ってしまう。


「ゆっくりして、そんなに緊張しなくていいんだよ、俺はまだ若校長なんだし」


「お話というのはなんでしょうか?」


「蓮斗と付き合ってるんだね」


「ブハーッ」


やばい、コーヒーを吹き出してしまった。


「す、すいません、あまりにもびっくりして…」


校長ー

いや、蓮斗のお父様は笑いながらテーブルを拭いてくれた。



「今年の新人戦の時に知ったんだよ」


「そうなんですか…、気づいてたのになんで今まで言わなかったんですか?」


「校長としては明かさないといけないと思う。でも、蓮斗は木崎先生を心から愛している。奪いたくなかったんだ。もし明かしたら蓮斗のためにならない。だから俺は2人の交際を側から見守ろうと決めたんだ、木崎先生も教師としても一個人の女性としても蓮斗を支えてくれてありがとう。」


「いえ、そんなことないです、蓮斗くんのおかげで私も明るくなれたんです。」


「なのになぜ転任を希望しているのかな?しかも全部県外の離れてる高校を書いてる」


私は、希望届にいくつかの高校を書いて提出した。


簡単に出した決断ではない。いろんなことを考えて私なりに最善の決断をした。



「私は、蓮斗が好きです、大好きなんです…離れたくないバレないように上手く付き合っていこう、そう思っていました。蓮斗と一緒にいて幸せなんです、私の心を満たしてくれて、一緒にいると落ち着きます。でも、私は教師です。蓮斗だけの教師じゃない、クラスみんなの教師なんです。そう考えると、みんなを見るし、蓮斗のことも教師として見て考えるんです、このまま付き合っていいのか……、今まで付き合って生徒たちにバレなかったのは奇跡です。これから付き合い続けていつバレるか分かりません。もしバレたら、蓮斗はこの学校で苦い思い出を作ってしまうことになります。この学校に居づらくなるはずです。高校の3年間は本当にかけがえのないいろんなことを吸収して楽しめる期間だと思います、蓮斗には建築家という立派な夢もあります。夢を叶えるために、人を大切にして高校卒業してもずっと会える仲間を作る、蓮斗にはこういう3年間にして欲しいんです。蓮斗は私のことを愛してくれていると思います、十分なくらい伝わってきます。それがなぜか私にとっては苦しいんです。蓮斗の時間を潰している気がして。だから好きだからこそ、蓮斗のことを考えてこその判断です。私が学校から離れてきっぱり関係もやめるつもりです。」


「木崎先生、俺以上に蓮斗のことを考えてくれてありがとう」


「とんでもないです」


「俺がいろいろ言うことじゃないから、2人に任せるけど、本当にこれでいいんだね?」


「はい、これでいいんです、蓮斗が別れることを知ったら一時的にショックになるかもしれないですけど、その時は校長、いや、蓮斗のお父様、お願いします」


「…分かった」


蓮斗のお父様のマンションを出た後、私は遅めのクリスマスケーキとプレゼントを買って、蓮斗の家に向かう。


蓮斗、ごめんね、でもこれが蓮斗のためだから。


蓮斗と一緒にいれるのもあと3ヶ月。
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