ノクターン

夕方まで、たっぷり海で遊び。

その後、食事までの時間は 街をブラブラする。
 


「麻有ちゃんが こんなに海が好きだとは 思わなかったよ。」

智くんは、のんびり話す。
 
「私も。知らなかった。第一、海って入った事ないかも。」

日焼け止めを塗っていても 私達の肌は うっすら赤く焼けていた。 
 


「うそー。大学生の頃とか、行かなかったの?」智くんは、驚く。
 
「うん。サークルのバーベキューとか。砂浜でやったけど。海には入ってないよ。やっぱり生まれて初めてだよ。」

私は 智くんの腕に抱きつく。
 


智くんも 歩きながら 私の肩をギュッと抱く。

まだ暑い街を ぴったりくっ付いて歩く。


暑ささえも 愛おしい。
 

民芸品を見たり 冷えたジュースを飲んだり。

風情のある街角で 写真を撮ったり。
 


「麻有ちゃん。何か買ってあげるよ。」と、智くんに言われる。
 
「あのね。何も欲しくないの。不思議。」私は答える。



智くんと一緒にいると 何も欲しくなくなる。

洋服やバッグなど 以前は欲しい物があったのに。


物以上の満足を 頂いているから。


買えない愛をたくさん。


それに、買いたいと思えば いつでも買えるという安心感を。
 


「せっかくだから 何か買って帰ろうね。親父に貰ったお小遣いもあるし。帰りまでに選ぼうね。」


智くんは 私の頭を撫でる。

人目を気にすることもなく。


海外にいる解放感と自由。
 
「ありがとう。」と言って微笑む私。



幸せ過ぎて 今日が終わってしまう事が怖い。



ずっと、このままで。

ずっと、ここに居たいと思う。



子供の頃の、智くんが居た夏のように。


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