ノクターン

ポニーテールに結んだ私の髪に 智くんが 黄色い花を挿している写真。


私は、手に縄跳びを持って俯いている。

智くんは、軽く背伸びをしていて。


真剣な表情で。

私の髪に 小さな手で花を挿す。



写真を意識していない 自然な二人の横顔。

背景に光っている西日も 別荘の庭も美しい。
 


「泣かないで、麻有ちゃん。」

お母様の声に顔を上げた私。
 

「ごめんなさい。」

涙を拭いながら言う。
 

「二人の披露宴に 写真が必要かなと思って 探していたのよ。そうしたら デジカメの中に プリントしていないこの写真があったの。私、天才カメラマンでしょう。」

お母様は明るく言う。
 


智くんと 縄跳びをした夏。

花を摘んだり、絵を描いたり。

近くの公園で ブランコに乗ったり。

私達、なんて素敵な時間を 過ごしていたのだろう。



自分達が覚えているよりも、ずっと。
 

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